宮城で8日に開幕する第64回春季東北地区高等学校野球大会。2連覇を狙うのは、宮城1位校・東北だ。

 1日に組み合わせ抽選が行われ、選手宣誓をする佐藤碩人(ひろと)主将は「実感が沸いてきました。連覇を狙いたい」と闘志を口にした。センバツ出場した盛岡大付属、仙台育英と同じゾーンになり、夏を前に全国レベルの力だめしもできそうだ。

24回目の春優勝は、仙台育英の23回を上回る回数。東北地区の野球をリードしてきた2校に夏も注目が集まる
24回目の春優勝は、仙台育英の23回を上回る回数。東北地区の野球をリードしてきた2校に夏も注目が集まる

■大ピンチ!ベストオーダーが組めない!

 7大会(8年)ぶり24回目の春優勝を飾った東北。準々決勝、準決勝では2年生左腕、葛岡仁、古川原将真で2試合完封。打っては5試合4本塁打34得点と、投打に安定していた。しかし、優勝インタビューでの我妻敏監督(35)は「必死でした。ケガ人が多く、選手を試すとかそういうレベルではなかった。パズルを組み直しながら、誰を出すか毎日悩んでいましたので…」と、喜びよりも安どの表情だった。

 そう、今大会はアクシデントが続出。ベストオーダーが1試合も組めない戦いだった。夏の甲子園メンバー、センター千葉隆誠(3年)を筆頭に、ショート野田陸翔(3年)、サード庄司修也(3年)が公式戦中のケガで戦線を離脱した。そのため、内外野を総シャッフル。まさに「パズルを組み直すように」(我妻監督)、やりくりし、祈るような気持ちでベンチから見守るしかなかった。エース葛岡は決勝の途中から高校初のセンターを守り「びびりました(笑)」と苦笑い。しかし、そんな緊張感が逆に奏功したのか、終わってみれば全5試合で2失策だった。

 鈴木雄太コーチ(25)は「信じられない。決勝でレフトとファースト守った選手は、ほぼ初めてですよ。無茶ブリに応えて、よく勝ちました」と、選手の奮闘ぶりに感心した。

抜擢に快打で答えた下級生コンビの(左から)遊佐欄、伊藤康人、中村紘大
抜擢に快打で答えた下級生コンビの(左から)遊佐欄、伊藤康人、中村紘大

■緊急出場の1、2年生が次々と活躍

 ケガ人続出の緊急事態だったが、不思議と選手たちは落ち着いていた。その理由を佐藤主将が教えてくれた。「準決勝前日。ノックが終わってから我妻監督が僕らを集めてこう言ったんです。『明日、試合に出る選手はケガ人の代わりなんかじゃない。選ばれた選手だ。だから思い切ってプレーしてほしい』と。そう言われて、経験の浅い選手も失敗を恐れず、思い切って試合に臨めたのだと思います」。

準決勝で3安打14奪三振の完封を果たした古川原将真。決勝も中継ぎしV腕になった
準決勝で3安打14奪三振の完封を果たした古川原将真。決勝も中継ぎしV腕になった

「代役」ではない-。この言葉が薬のように効いた。


 準決勝では初スタメンの伊藤康人が1年生ながら先制タイムリー含む初のマルチ安打。今大会から初出場の遊佐蘭(2年)、中村紘大(2年)にも初安打が生まれ、チームはノッた。下級であっても、失敗を恐れず相手に向かった選手たち。背番号8の杉澤龍(2年)がショートを。背番号3の植木利久(3年)がサードを守るなど、伝統校ならではの層の厚さも感じたが、選手ひとりひとりの特性を把握していた指導者の観察力はお見事だった。おそらく、100人を超える大所帯でありながら、全選手がノックを受け、全選手が同じグラウンドで練習していることが、強固な結束力を生むのだろう。

 昨夏は仙台育英を破り、7年ぶりの甲子園出場を果たした。しかし、そのあとセンバツ出場を逃し、長い雌伏の時を過ごした。仙台育英との差はまだまだ大きいと感じている東北の選手たち。2連覇がかかる東北大会でも、121人の結束力を発揮し、確かな足跡を残す。【樫本ゆき】

春の優勝は、夏の通過点。東北の選手たちは自信を深めつつ、冷静に先を見据える
春の優勝は、夏の通過点。東北の選手たちは自信を深めつつ、冷静に先を見据える