表情を崩さず。毅然(きぜん)とした態度で最後の整列をし、一礼した。スッとベンチに戻り、書きかけのスコアシートを仕上げる。パタリと表紙を閉じ、ふーっと息を吐いた。選手たちは、敗戦に泣いている。その中で、ひとり、気丈に振る舞う姿は、凜(りん)と咲く花のように見えた。

 最近、女子マネジャーの気質が変わってきているように思う。これまでは、接客、お茶出しなど「女性らしさ」を発揮しながらチームを“応援する”タイプが多かった。「南を甲子園に連れてって」が名ゼリフの漫画「タッチ」の浅倉南のようなイメージだ。しかし最近はちょっと違う。「もっと戦力になりたい」、「チームに貢献したい」、中には「女扱いしないでほしい」という女子までいて、頼もしく感じることが多い。今春のセンバツ大会から女子マネの練習参加が条件付きで認められたり、宮城でも東北初の女性監督、涌谷・阿部奈央監督(25)が誕生したりと、野球界での女性の存在が変わりつつある。

 1968年に宮城大会準優勝を果たした伝統校・築館(つきだて)。女子マネ・佐藤莉佳子さん(3年)もその一人だ。練習中はノックのボール出し、道具の整備、走塁、スイングスピードのタイム測定など、休む暇なく選手と動く。部員9人だった昨冬は、2年生マネジャー小原愛さんとともに、率先して「食トレ」を引っ張った。1日30合のごはんを炊き、1人100円の予算でコロッケ、春巻きなど総菜の買い出し。温野菜もつけて夕食セットを作った。それを毎日スマートフォンで記録し選手のモチベーションを上げた。平日は毎日。半年間続けて最大13キロの体重アップを成功させた。

 「負けたくないんです」が口癖だ。学業成績は常に学年3位以内。選手からの評判は、責任感と意志の強さから「女にしておくのがもったいない!男前な女子マネです」。エースで主将の髙橋祐輝(3年)は「リカコは気が付いたことを強めに、遠慮なく、ビシビシ言ってくれる。最高の仲間です」。

■初戦・仙台育英戦で初回に3点を先制

 この日築館は、春のセンバツ出場校・仙台育英を相手に1回表、2連打をからめて3点を先制。エース長谷川拓帆(3年)のファーストストライクを狙い打ちし、球場をどよめかせた。試合前「仙台育英と、Koboパークで試合ができるなんて最高ですよ! 気持ちは決勝戦です」と元気いっぱいだった佐藤さん。2回以降、得点を許して3-12。7回コールド負けとなったが、試合後はやりきった顔で「すっごく楽しかったです!」と、目にあふれた涙をこぼさないようにして言い切った。短い夏だったが、悔いはない。

 思えば、春の大会前、自分を失いかけた時があった。3月までの顧問、利根川直弥監督(45)が4月に石巻工に転勤し、チームは大きな喪失感に襲われた。「新入部員は入るのかな」、「これからチームはどうなっちゃうんだろう…」。不安と悩みで押しつぶされそうになったとき、宝塚歌劇団の教訓「ブスの25か条」をネットで見つけた。

・笑顔がない

・自信がない

・グチをこぼす

・声が小さくいじけている

・何でもないことにキズつく

・問題意識を持っていない・・・・(略)

 ハッとした。今の自分に当てはまっているなと思った。「読んで、自分は心がブスになっているな、って思いました。言い訳や、逃げ道を探していたかもしれない。気持ちを大きく切り替えました」。そうして臨んだ、最後の夏。初戦だった。

 卒業後の夢は助産師になること。看護の専門学校を目指すそうだ。理由を聞くと「女性にしかできない仕事だそうです。生命に関われる仕事ですし、すごく良い仕事だと思いませんか」と目を輝かせた。最後に3年生6人で記念撮影をすると「ちょっとタイム、タイム!」と言ってポケットから出したリップをサッと塗った。「男前な女子マネ」佐藤さんが、17歳の女の子に一瞬だけ戻った瞬間だった。【樫本ゆき】