昨夏福岡の代表校、東筑が無念の初戦敗退となった。


 目からあふれ出る涙が止まらない。

 「なに泣いとるんや。オレらより北九州のほうが上だっただけやけ! 来年頼むぞ。甲子園行ってくれよな」。号泣する後輩の肩をたたきながら、北村謙介(3年)が気丈に声をかけた。

 シード校の東筑が2回戦で北九州に2-5で敗れた。昨夏の甲子園メンバーが6人残り、今春センバツは創部118年で初の2季連続出場。この夏3季連続出場を目指したが、初戦敗退となった。

 エース石田旭昇(3年)が打ちこまれ、打線も2安打と沈黙。石田は試合後「大会前の調子もよかったし油断していたわけではないけれど、足をすくわれた。あまりにも早すぎる…。精神的弱さがあった。支えてくれたひとたちに申し訳ない」と泣きじゃくった。


■宝刀ツーシームを打たれた


 石田はサイドスロー(右投げ)ながら、140キロを超える速球と、内外に投げ分ける制球力が自慢だ。球速以上に速いと思わせるキレがあり、さらに県内のライバル校が警戒するツーシームを持っていた。右打者の内角に沈んで落ちるクセ球でゴロを打たせ、攻撃のリズムを作るのが東筑の強さ。今大会も優勝候補と言われていた。

 しかし、初回、そのツーシームを狙われた。

 1、2番に中前打と、右越え二塁打で無死二、三塁とされ、3番桑名翔太(3年)に先制の右越え3ランを打たれた。「カウントを取りに行ったツーシームが落ちなかった。配球ミスです」と悔やむ捕手北村。桑名が「打ったのはまっすぐ」と答えたほど、変化が甘く入った失投だった。

 もともと立ち上がりに不安を持っていた石田。北九州の上位打線にその弱点を突かれた。「石田君の球は自分のような左打者が有利。最後まで引きつけて、つまってもいいから振り抜こうと思った」。主将でもある桑名は石田対策でマシンを145キロに設定し「目」を慣らしてきた。試合当日は朝6時半からグラウンドに行き後輩とティー打撃をしたという。始めは一人だったが、次々と選手が集まり、気づくとレギュラー全員が自主練習に打ちこんでいた。新チームから「打倒東筑」を掲げ、1日1000スイングを日課にしてきた北九州。その気迫に、王者がペースを崩された。

 石田は中盤になっても調子が戻らず、5失点。5回途中でマウンドを降りた。これまで石田を助けてきた強力打線も沈黙し、安打は6回の2本のみだった。「石田を助けてやれなかった…」。選手たちは口ぐちにそう言った。昨夏一人で福岡大会を投げ抜いた石田を責める者は、誰もいなかった。


■強制されず、納得する野球を、自分の考えで


 質にこだわり、3時間という短い練習時間で勝つのが東筑のやり方だ。文武両道を貫き、その中でつかんだ昨夏の21年ぶり甲子園出場は多くの人に感動をもたらした。他県の進学校が視察に来ることもあった。しかし「追われる立場」になったとき、何かが狂い始めた。それは、無心さだとか、チャレンジャー精神だとか、勝利への執念、だったのかもしれない。北村は「初戦で緊張してしまったところも含めて、これが僕らの実力。甲子園に2回出て1回も勝てなかったのも実力不足でしたから。でも今日の相手は強かった」と完敗を認めた。そして「楽しかったですね、高校野球。明日から受験勉強ですね」と笑った。

 選手たちが日ごろ青野浩彦監督から言われていることはただ1つだった。

 「勉強をしっかりやれ」

 野球については、何一つ強制されず、自分たちが納得する野球を、自分たちのやり方で考えて、やってきた。そして「運よく」2回も甲子園に行けた。悔し涙は止まらないが、表情にはすがすがしさにあふれていた。

 「結果でものを言うのは簡単ですが、努力の課程を我々はずっと見てますから。結果を出すために1年間準備をしてきて、今年は結果が出なかった。ただそれだけです」。2016年夏も初戦敗退を経験している山本哲也部長が、静かに選手たちをねぎらった。そして…。「(番狂わせ?)いいえ違います。こんなことが起きないと、去年ウチも甲子園行けてないですから」。よろこびに沸く北九州の選手たちの横で、ノーマークから勝ち上がった昨夏の自分たちを思い出し、ほほ笑んだ。【樫本ゆき】