昨秋の明治神宮大会王者、仙台育英(宮城)のドラフト候補右腕、佐藤世那投手(3年)が、9回6安打完封。東北勢初優勝“大旗の白河越え”に向けて、神村学園(鹿児島)を下す好発進を決めた。

 大きく振りかぶり、自慢のフォークで最後の打者のバットを振らせると佐藤世は右手をグッと握りしめた。昨秋の日本一右腕として注目され、今まで感じたことのないプレッシャーを抱えながらの初甲子園。聖地のマウンドに初めて立った16日の練習後に口にした「完封する自信がある」宣言を実現し、「素直にうれしい」と胸をなでおろした。

 立ち上がりは最悪だった。球速は140キロ台前半を連発するも、狙ったコースにボールがいかない。相手は決め球のフォークに手を出してくれない。4回までに毎回の5四死球を許し、80球をも費やした。だが、5回前のベンチで佐々木順一朗監督(55)から「今までのことを忘れ、切り替えろ」と声をかけられ、気が楽になった。「力を抜いて」投げ、直球中心で攻めることで「いやでもフォークを振るよう」追い込んだ。昨秋は16試合で120回超を投げ、防御率0・90。「うまく修正できた」と経験でカバーした。

 昨秋神宮大会直後に、右肘の骨の異常が発覚。センバツに向け、ほぼノースローで治療に努め、回復してからも最長4回しか投げていなかった。点差が開き、佐々木監督から「どうする?」と聞かれると「行きたいです」と志願。最後まで投げきり「スタミナは十分」と、復活の手応えをつかんだ。

 もう1つ、マウンドを譲らない理由があった。「前の試合で平沼が完封していたので、とにかくゼロに抑えようと」。目の前で見せられたライバルの好投で、心に火がついた。昨年11月の神宮大会で、宿舎が一緒だったことから連絡をする仲に。前夜も携帯電話で2人は「絶対勝てよ」(平沼)「任せとけ」(佐藤世)とメッセージを送り合った。神宮では対戦がかなわず「甲子園で試合しような」と約束したことが、27日に実現する。佐藤世は「今日は(平沼に)連絡しません(笑い)。投手戦になると思う」と気を引き締めた。

 先発メンバーはみな「(佐藤)セナがマウンドに立っていると頼もしい」と言う。佐々木監督も「セナが投げると、みんな安心して打席に立てたのかな」と語った。「ゼロに抑える」と言い切る強気の「セナ」がいる限り、仙台育英は負けない。【高場泉穂】

 ◆宮城県勢の完封勝ち センバツでは04年の熊本工戦でノーヒットノーランを達成したダルビッシュ有(東北)以来で、11年ぶり5人目。ダルビッシュ以外では72年岡嶋敏彦、85年佐々木主浩、90年加藤将斗(すべて東北)がマークしている。

 ◆初戦7連勝 仙台育英が07年夏から春夏通算で出場7大会連続初戦突破。東北勢の7連続初戦突破は聖光学院(福島)八戸学院光星(青森=ともに継続中)に並ぶ最多タイ。