岐阜の怪腕が、甲子園デビューを最速150キロで飾った。今秋ドラフトの目玉、最速152キロの県岐阜商・高橋純平投手(3年)が、2安打1失点(自責0)、11奪三振完投で松商学園(長野)を破った。1回に150キロをマークすると、4回以降は完全投球。各球団スカウトから、「大谷(日本ハム)級」の声も上がるほど絶賛の嵐だった。

 父の祈りを、高橋は超えた。純粋で、平穏な人生を歩んでほしいと願い、父康二さん(57)が「純平」の名前を付けた。「純粋」は貫けても、もう「平穏」ではいられない。2015年3月24日、甲子園。「甲子園でも自分の投球ができました」と胸を張ったこの日「高橋伝説」は始まった。

 初回。松商学園先頭への2球目。150キロのスピード表示に、曇天の甲子園がどよめいた。13年済美(愛媛)・安楽智大(当時2年=楽天)は初戦のプレーボールから5球目に150キロ。12年花巻東(岩手)・大谷翔平(当時3年=日本ハム)も大阪桐蔭・藤浪晋太郎(同=阪神)も初戦、最速150キロで投げ合った。歴代のスピードスターに、高橋も続いた。春最速153キロの「藤浪超え」への期待に、観客が熱くなった。だが高橋がこだわったのは脱力だった。

 「150キロが出たのは、いい感じのスピンがかかっていたからだと思います。でも力んでしまった」。1-0の2回、失策がからんだスクイズで追いつかれた。3回も四球と投前安打で1死一、二塁。ここからが真骨頂だった。

 140キロ台の直球で「5割くらいの力でコースに投げること」を意識した。さらにカーブを多投し、体の力を抜くことを徹底。スライダーとの組み合わせで3回途中から完全に松商学園を封じ、110球1失点完投。初戦突破に向けた「2点以内に抑えれば」の目標を果たしてみせた。

 あこがれの先輩、2学年上のエースだった藤田凌司さん(立大2年)が一塁側スタンドから見つめていた。入学したばかりのころ、藤田さんに連れられ、学校近くの温泉に行った。2人で語り合った。遠慮がちの新入生を気遣う優しさに、心がほぐれた。この日も、朝に藤田さんから届いたスタンプ付きの「頑張れ」のLINEを見ただけで勇気が湧いた。勝利投手になった後輩に、藤田さんは「やっぱりやってくれましたね。純平は本当にメンタルが強いんです」と喜んだ。

 藤田さんの父で高橋が入学時の監督だった藤田明宏副部長(47)が、今月限りで学校を離れる。恩師に勝利を届け「校歌を歌えてよかったです」。甲子園の新星がその瞬間、17歳の笑顔を見せた。【堀まどか】

 ◆高橋純平(たかはし・じゅんぺい)1997年(平9)5月8日、岐阜市生まれ。小2で野球を始め、中3秋に142キロを計測。県岐阜商では1年春からベンチ入り。2年春は県決勝で逆転3ランを放ち優勝。同年夏は県4強。右投げ右打ち。183センチ、76キロ。

<各球団スカウトコメント>

 ソフトバンク永山チーフスカウト 順調に150キロ出ていたし、バランスがいい。鍛えがいのある投手

 オリックス由田スカウト やはり潜在能力がずばぬけている。しなやかだがパワー系でもある

 日本ハム山田スカウト顧問 素晴らしい素材。夏に向けて制球が安定すれば、当然(1位)入札になる。あとは何球団競合するかでしょう

 西武渡辺SD ピッチャーらしいピッチャーで投げ方に癖がない。順調に伸びてきてほしい

 楽天長島スカウト部長 緩いカーブが魅力。持ち球のほとんどで三振が取れていた。引き続き見ていく上で、ワクワク感が200%になりました

 ロッテ松本編成統括 直すところがないフォーム。大谷、藤浪クラスになるのは間違いない。体ができれば160キロは出るでしょう

 巨人原沢GM まともなヒットはない。2巡目に残っていることはないでしょう。プロでローテーションに入る素材

 阪神中村GM うわさにたがわない一級品。投手としてのセンスが高い。競合になる逸材

 広島苑田スカウト統括部長 下級生の時より力強くなっている。球離れの感覚がもっと繊細になれば、変化球の切れも出てくる。上位候補

 中日中田スカウト部長 ダルビッシュのような、球速と切れを兼ね備えた空振りの取れるストレートを投げられる。日本球界を代表する投手になるだけの素質がある

 DeNA吉田スカウト部長 速い真っすぐと大きいカーブの組み合わせで緩急を効かせて、2回から余裕を持って投げていた。まさに本格派右腕

 ヤクルト鳥原チーフスカウト 高速スライダーもあるし、投げ方、体つきはうちの伊藤智仁タイプ

 ブレーブス大屋スカウト 小さい歩幅から腕を鋭く振るアメリカンタイプ。力が逃げない投げ方。力のある直球は既にプロ2~3年目のようだ