100年の夏に「世界の王」が、高校野球への思いをこめ、レジェンド始球式を行った。第97回全国高校野球選手権大会が6日、甲子園で開幕。ソフトバンク王貞治球団会長(75)が、開幕試合の鹿児島実-北海(南北海道)の始球式を務めた。自身58年ぶりの夏の甲子園マウンド。どんぴしゃりのストライク投球で、節目の大会はスタートを切った。また、母校・早実(西東京)のスーパー1年生、清宮幸太郎内野手にもエールを送った。

 甲子園のボルテージが「第1球」から最高潮に達した。拍手に包まれる中、王会長が四方に頭を下げ、高校野球100年の夏の始球式に臨んだ。1957年(昭32)のセンバツV、同年夏にはノーヒットノーランを達成した左腕から重みある球が投じられた。当時は珍しかったノーワインドアップ。左打者への外角低めに軌道は描かれた。宣言していた「剛速球」ではなかったが、捕手も動かない75歳のストライク投球。朝から3万5000人を集めた聖地が、再び大歓声と拍手に包まれた。

 王会長 100年ということで、ご指名いただいた。自分たちのときのことも思い出しました。いいところ放らないといかんな、と思いながら(投げた)。恥かかなくて良かったな、というのが本音ですが、選手たちの勢いを感じ、選手たちのために投げました。

 1球に思いを込めた。感動的な始球式の約20分前。早々とグラブを右手にはめ、ブルペンに向かう姿があった。「5、6球」と振り返ったウオーミングアップを終え、大役に向かった。朝には「お風呂に入って身を清めてまいりました」という。王会長自身、夏の甲子園マウンドは58年ぶり。半世紀を超え、歴史を紡ぐ一役に幸せを感じていた。

 王会長 ファンのみなさん(の思い)も100年続いている。150、200回と、みなさんにつないでいってほしい気持ちが、ここに来て強くなりました。

 そして、高校野球、球児への思いを言葉にした。

 王会長 胸を張って、堂々と仲間を信じてプレーしてほしい。(高校野球は)野球の原点。勝った負けたという世界ではありませんから。思い出をつくる場所。人生のワンステップ。思い切ってやってほしい。

 無類の輝きを放つ青春時代。現役の球児を「一言で言えば、うらやましい」と表現した。目の前の一瞬に友と全力を尽くしてほしいとの思いが、見事な投球の背景にあった。もちろん、後輩にも金言を残した。帰り際、早実・清宮について質問され「自分のバッティングをしてくれればいい」と自然体を求めた。節目の大会で、母校が出場し、次世代のスター候補と同じ空間にいたのも何かの縁か。新たな歴史を刻む大会が、始まった。【松井周治】

 ◆王貞治氏と甲子園 早実1年の56年夏、1回戦の新宮戦に5番レフトでスタメン出場し、2回戦の岐阜商戦では先発で投げた。2年の57年春は3試合連続完封を含む4完投で、センバツの関東勢として初優勝。2年夏の寝屋川戦では春夏を通じて史上唯一の延長戦達成となる11回でノーヒットノーラン。通算10試合(登板9試合)で6勝3敗、防御率1・49。打撃は34打数10安打(打率2割9分4厘)、2本塁打、11打点。3年夏は都大会決勝で明治に延長12回、4点リードから逆転サヨナラ負けし、5季連続出場を逃した。