弘前学院聖愛(青森2位)が延長10回タイブレーク(無死一、二塁から開始)の末、盛岡大付(岩手1位)を7-4で下し2年ぶりの8強に進出した。最速120キロの右下手投げエース山口大成主将(3年)が2回途中から登板し7安打を浴びながら無失点に抑えた。

 無意識に拳を握り締めた。タイブレークの延長10回を無失点で乗り切った山口は右手でガッツポーズをつくり、悠然と整列に加わった。「抑えられて自信になる。球速で打ち取っているわけじゃない。投手は制球力だと思う」。下手から繰り出す110キロ台の遅球で幻惑。時折シュートを織りまぜながら、コーナーを突く自在の投球で、東北最強打線を手玉にとった。

 鶴の一声だった。昨年11月。元日本ハムの投手で、現在は弘前市職員と硬式クラブチームの弘前アレッズの監督を務め、巡回コーチも務める今関勝氏(46)から下手投げ転向を打診された。昨秋までは横手投げだったが、打ち込まれて県大会出場を逃していた山口は「目先を変えたかった」と即決。オフの間は同じ下手の西武牧田和久を参考に、週3日に200球を投げ込んでフォームを固めた。

 球速は131キロから10キロ以上も下がったが、駆け引きをマスターした。この日、相手打線が山口の遅球をとらえられなかったのには秘密があった。原田一範監督(39)は「フォームの緩急を使っていた。上げた左足を突くタイミングを微妙にずらしていた」と明かす。2安打も勝負どころで抑えられた通算52本塁打の盛岡大付・植田拓外野手(3年)は「気付かなかった。球が遅すぎて、待たないといけない球にも手が出てしまった」と首をひねった。

 今日10日の準々決勝は仙台育英と対戦する。主将の山口は「チーム全員で戦い抜く」と宣言。地元弘前産のアンダースローが下から突き上げて、下克上を起こす。【高橋洋平】

 ◆山口大成(やまぐち・たいせい)1999年(平11)7月14日、青森・弘前市生まれ。弘前北小2年で野球を始め、弘前一中では軟式野球部。弘前学院聖愛では1年秋からベンチ入り。177センチ、74キロ。右投げ右打ち。家族は両親、妹。