花咲徳栄(北埼玉)の甲子園連覇の夢はついえた。野村佑希投手(3年)は「苦しかった」と吐露したことがある。選手も、岩井隆監督(48)も、甲子園へ戻るために懸命だった。そして人知れず、3年生の女子マネジャー3人も必死に戦っていた。

 今年4月、阿部蘭マネジャー(3年)は「えっ?」と言葉を失った。マネジャー希望見学の新入生が、多い日は約20人…。硬球の危険防止の意味もあり、野球部で女子マネジャーの正式募集はない。阿部マネジャー自身も入学直後、何度も職員室に足を運び、練習見学にこぎつけた。「甲子園のテレビ中継を見て1球1球、目に映るものが他とは違って。野球部のマネジャーなんて考えたこともなかったのに」。志望校を急きょ変更してまで、花咲徳栄野球部マネジャーを夢見た。

 練習見学を1カ月続け、ようやく仮入部を認められた。一緒に熱意を訴え続けた関ちはる、吉野里菜の両マネジャーと3人で任務を覚え、こなしてきた。2年夏に先輩が全国制覇し、迎えた残り1年。「汗だくで働いて、同期を甲子園へ送りだそう」と誓った。そこへいきなり、たくさんの新入生。「正直、複雑な気持ちはありました」と3人は声をそろえた。

 結局9人が入部し、3学年18人の大所帯に。汗だくどころか、15人の後輩に「教える」ことが日常事になった。全てを継承する一方、3年生は“集大成”を進めた。夏の大会の御守り作りだ。途中から下級生の手も借り、全部員163人分を作り上げた。「もう一度戻れますように」の願いを込め、ベンチ入り選手の御守りには甲子園の砂をひとつまみ、入れた。野村と斎藤倖介投手(3年)が、快く砂を提供してくれた。

 3年生部員42人の御守りには、それぞれ異なる漢字1文字を刺しゅうした。例えば、3人で決めた野村への1文字は「樹」だ。「真っすぐ筋を通し、自分の目標を達成できるよう努力のできる人」とのメッセージカードを添えた。野村は「ずっとそういう風に見てもらえていたんだな」と表情を崩した。

 ナインも、彼女たちの努力は知っている。「いつも走って頑張ってるよね」と選手に声をかけられ、自信をつけた2年生マネジャーもいる。人知れず泣き、悩み、立ち上がってきた。岩井監督は「冬場に努力して、耐えて、きれいな花を咲かせる」と、ナインを梅の花に例える。女子マネジャーたちも同じように花を咲かせてきた。

 今後も正式募集の予定はない。それでも岩井監督は「一線をしっかり引き、それでも温かい手を差し伸べてくれる大切な存在」と感謝の気持ちを隠さない。甲子園で夏を終え「3人で最後まで頑張れて良かったです」と阿部マネジャー。西日に照らされながら頬をぬらし、3人で手をつないでいた。【金子真仁】