シーズンオフ企画の金曜日企画「高校野球NOW」の第3回は、近江(滋賀)の林優樹投手(2年)と有馬諒捕手(2年)のバッテリーです。今夏の甲子園では初戦で智弁和歌山を破るなど快進撃を見せたが、準々決勝で金足農(秋田)に逆転サヨナラ2ランスクイズを決められ、敗戦。激戦の裏側にあった物語とその後を紹介します。

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数々の激戦に沸いた第100回の夏の甲子園。中でも忘れられない一戦があった。のちに準優勝を果たす金足農と近江の準々決勝の幕切れは、あまりにもインパクトが強いものだった。

9回無死満塁。金足農の斎藤は三塁方向へスクイズを試みた。三塁走者がホームを踏むと、一塁への送球間に二塁走者までが生還。必死にタッチにいった捕手の有馬はそのまま突っ伏し、マウンドの林はその場から動けなかった。試合直後、有馬は「2ランスクイズは頭になかった。落ち度です。球場の雰囲気にのまれてしまった」と話し、林は「場の空気にのみ込まれた。ストライクゾーンがちょっと違った感じになった」と振り返った。

林 あのとき初めて有馬のサインに首を振りました。内角の真っすぐを(スクイズを)やりやすいコースと高さに投げてしまった。

有馬 本来であれば、大事なときは(意見を)押すのですが、押せなかった。林がのまれているように見えたので、納得いくボールを、と思いました。

冷静に投げ続けた林と、2年生ながら絶大な安定感を持つ有馬のバッテリー。スライダーを要求する有馬に林は初めて首を振った。有馬も普段と違い、自分の意見を押し通さなかった。甲子園の独特の雰囲気が「いつも通りのプレー」を許さなかった。

直前の9回表、近江は無死一、二塁の好機を、三振と送りバント失敗で逃していた。相手投手は大会NO・1といわれた吉田輝星。林と有馬は、甲子園の空気が徐々に変わっていくのを感じていた。聞こえるはずの指示の声も大歓声にかき消されて聞こえなかったという。

新チームが発足し、有馬は主将になった。あの夏の試合は、誰もが経験できるのものではない。

有馬 どこかで流れがある。それを味方につけられるか。流れの重要性を感じました。あれ以上の経験をすることはないと思うし、経験は生きていくと思う。

林は相手エース吉田の姿を目の当たりにし、「大事なところで勝つのがエース」と胸に刻んだ。

「この秋は有馬と林にかかっている。2人がしっかりしていれば勝てる。どちらかが崩れれば勝てない」と多賀章仁監督(59)から託された今秋は、県で優勝を果たしたものの近畿大会で初戦敗退。来春センバツ出場は厳しい状況だ。

19年の、101回目の夏の甲子園へ。喜びも厳しさも学んだ聖地に、必ず戻るつもりだ。【磯綾乃】