高校野球が盛り上がりを見せた2018年も残りわずか。担当記者が振り返ります。今回は大阪桐蔭。快挙の裏にあった話を紹介します。

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この夏、大阪桐蔭は偉業を達成した。同校2度目の甲子園春夏連覇。藤浪晋太郎投手(阪神)、森友哉捕手(西武)を擁した12年以来の連覇。今年の大阪桐蔭は根尾昂内野手(中日ドラフト1位)、藤原恭大外野手(ロッテドラフト1位)ら多数のドラフト候補を抱え「最強世代」の呼び声が高かった。圧倒的な強さの裏には「2つの敗戦」があった。

17年8月19日の夏の甲子園3回戦、大阪桐蔭は仙台育英と激突。センバツを制し、この年も春夏連覇を目指していた。先発の柿木蓮投手(日本ハムドラフト5位)が8回まで5安打無失点の好投を見せ、8回表に中川卓也内野手の左前適時打で1-0とリードに成功した。

迎えた9回裏2死一塁、打球は遊撃手の泉口友汰の前に転がった。泉口は一塁手の中川へ転送。誰もが試合終了を確信し、柿木は笑顔でグラブをたたいた。ベンチからも選手がグラウンドへ集まり始めていたが、判定はセーフ…。中川の足がベースから離れていた。甲子園が異様な雰囲気に包まれる中、2死満塁から柿木が中越えの2点打を許し、まさかのサヨナラ負けとなった。

のちに西谷浩一監督(49)は、こう振り返っている。「よしっと思ったら、何が起きたんだ、と。しかも3年生ではなく、2年生。ベストピッチの柿木、打ったのも中川。2人がヒーローになる、柿木にとっては自信になる試合だった。天国から地獄になった。あんな形にさせてしまった。これは何とかしないといけない。普通の負けではなかった」。

残酷な敗戦から学んだのは「100%の確認」だった。中川は「(守備の連係を)基本はジェスチャーだったり声で確認しているんですけど、その時はピンチで自分にもあまり余裕がなくて、確認をあまり出来ずにいた。それでああいうミスにつながったんだと思います」と振り返った。たった1プレー、1球のスキは命取りになる。ナインは悔しさとともに学んだ。

主将となった中川を中心にスタートした新チーム。「無敗」を目標に掲げ、秋の大阪府予選を制し近畿大会でも優勝。「12連勝」で挑んだ11月の神宮大会だった。創成館(長崎)との準決勝。1点リードの3回に先発の柿木が3連打を浴び、2つの失策もからみ一挙4失点。2番手の横川凱投手(巨人ドラフト4位)も2回2失点と流れを止められず、6回から登板した根尾も1失点。打線は9安打も4点止まりで投打がかみ合わず、4-7で敗れた。

それまでの最多失点は「2」。リードされる展開も新チームになって初めてだった。柿木は後日、厳しい言葉で敗戦を振り返っている。「どこかに『勝てるだろう』という思いがあった。ミスが出たあとのカバー、ランナーコーチも含めてミスが全部出た。今のチームの弱さ、頼りなさが出た。生かせるなら、負けて良かったとも思います」。ベンチの雰囲気作りにしても、どこか後手に回る自分たちがいた。「上げていこう」と思っているのに、動かない。西谷監督に言われてやっと動く。チームに足りない部分を感じていた。

主将の中川も新チーム結成当初から思っていた。「前の代で出場させてもらっていた者が多く、どこか個人に走ってしまっている部分があった。打たなかったら声を出さない、エラーをしたら態度に出す、そんなことが多く見られました」。感じていながらも、なかなか思うようにいかない。神宮大会の敗戦は、自分たちの弱さと向き合う大きなきっかけとなった。

「春夏連覇」という目標へ、ナインは試合を重ねるたびに心を1つにした。いつでもどんな場面でもスキのないプレー。1人1人が目標に向かって行動すること。「最強世代」も、全ては敗戦から始まった。【磯綾乃】