時代が変化する中、心と体を強化する伝統の練習を続ける高校がある。28日、向上(神奈川)は「箱根駅伝5区トレ」を実施した。日刊スポーツのアマチュア野球担当記者が伝統の練習に潜入した。

箱根駅伝5区の名所「大平台のヘアピンカーブ」のあたりで、小雪が舞い始めた。雪粒を頭に乗せた向上ナインが歯を食いしばって駆け上がる。車から平田隆康監督(44)が「がんばれ!」と叫ぶと、選手はガッツポーズで応えた。

私も車を降り、走って追う。ナインは前日まで3日間、砂浜やロードワークで100キロ近くを走った。長距離が得意な田島雄大選手(2年)も「足がパンパンです」と笑う。それでも白線内を上体を崩さず走る球児に追いつけず、むしろ後続に迫られる。カメラを向けると、例外なく「よっしゃー!」と叫び、最高の笑顔で抜かしていった。

小田原城から、小涌谷の児童養護施設・箱根恵明学園までの15キロ強を駆け上がる。距離は少々短いが、箱根とほぼ同じコースだ。「子どもたちには未知の挑戦。自分に打ち勝ち、お守り的な強さを勝ち取ってほしい」(平田監督)と、同校の年末伝統のトレーニングとして20年以上続く。

激戦区・神奈川で、いまだに甲子園が遠い。平田監督は「ここ数年は壁の高さではなく自滅」と説く。だからこそ38人全員が強い心で、2時間以内に完走したことを喜ぶ。「毎年、箱根で自信をつけて一気に飛躍する子が出るんです」。今年も期待の存在がいたようだ。ナインはゴール後も疲れた様子なく、恵明学園の子どもたちと遊んだ。漆原壮一選手(2年)のピアノ伴奏で自然に合唱開始。団結力に目が潤みかける。山登り優勝の吉田風海主将(2年)は「絶対にぼくらの代で甲子園に行きます」と誓った。【金子真仁】

◆向上ナインの1日 自校グラウンドの狭さもあり、年末は例年、平塚市内で3泊4日の合宿を行う。初日の25日のクリスマス会とボウリング大会を楽しんだ後は、ひたすらランメニュー。この日は早朝5時から素振りを始め、小田原へ移動。8時45分に「箱根駅伝5区トレ」へ出発した。11時38分に全員がゴール。午後3時に伊勢原市の学校へ戻り、ミーティング。平田監督が「101回目の夏に必ず甲子園をつかめるように」と締め、解散した。