履正社・井上の頬に涙は流れていなかった。それほどショックを受ける完敗だったのかもしれない。「奥川くんは僕の中ではNO・1投手。球威もあるしキレもある。変化球のキレが今まで見たことない投手だった」。泥まみれのユニホーム姿で淡々と話した。

9回1死一、三塁では、カウント1-2からスライダーを捉えきれず併殺打。「直球がくると思ったけど、変化球もあるのかと乱された」と、星稜・奥川の狙いを絞らせない投球に高校通算29発のスラッガーは脱帽した。

試合前に岡田龍生監督(57)は「(井上が)奥川を打てるか打てないかで決まる」と話していた。井上は4打数無安打2三振。チームとしても、打撃マシンを体感160キロ近くに設定し、剛速球対策に取り組んだが散発3安打に終わった。岡田監督も「奥川を打てないと日本一になれないとよく分かったと思います」と奥川の実力を認めざるを得なかった。

井上は言った。「自分の実力不足が一番」。初の聖地には悔しさが残った。だが「今までで一番いい投手と対戦できた。これからはもっとしっかりとスイングして、自分の自信をつけられたらいいな、と思います」とも。再スタートに向け、得難い経験は確かにあった。【望月千草】

◆大阪勢の17三振 大阪勢が甲子園で1試合17三振を喫したのは春夏を通じ81年夏の北陽(現関大北陽)が名古屋電気(現愛工大名電)・工藤に延長12回で21個を奪われて以来(9回までは16個)。センバツでは73年北陽が江川(作新学院)に19個奪われて以来。