東邦(愛知)が接戦の末、21世紀枠の富岡西(徳島)を退けた。東邦側のアルプス席から流れた、なじみの音色に甲子園がざわつき、拍手が起きた。

昨年の春夏甲子園を連覇した大阪桐蔭の吹奏楽部が、東邦の応援曲を奏でていた。東邦の吹奏楽部が米国遠征中のため、1月に友情応援を依頼し、快諾されていた。17日に1度だけ合同練習してすり合わせを行い、1週間あまりの練習で、約120人の部員全員が大舞台に臨んだ。

東邦スタイルはマーチングの振り付けもあり、全国的名門の大阪桐蔭も予想以上に苦労したという。部長の井上里菜さん(3年)は「ここに戻って来られて、熱い、こみ上げるものを感じています。2週間前に楽譜をもらったんですが、踊れるようにするのがきつかったです」と笑顔で苦労を語り、いつもと違う演奏に充実感を漂わせた。

日程上では準決勝から東邦の吹奏楽部が甲子園に来られる。その場合は、大阪桐蔭との合同演奏になる予定だという。

大阪桐蔭は演奏も振り付けも東邦の「完コピ」を目指した。5回までは東邦スタイルでいき、6回と7回は大阪桐蔭スタイルで演奏。客席の雰囲気が変わると、試合展開も動いた。

同点の7回、「君の瞳に恋している」が流れている中で松井涼太内野手(3年)が勝ち越しの左前打。さらに、現中日根尾昂内野手(18)の応援曲で知られた「かっせー! パワプロ」をバックに、根尾と同じく投打でチームを引っ張る石川昂弥投手(3年)が、会心の適時中前打を放った。

松井は「ぞわっとして鳥肌が立った。みんなと『始まったね』とアイコンタクトしました。僕は思わずリズムに乗ってしまいました。すごく感謝しています」と笑顔。

石川は「聞こえました。自分の打席で始まったのでうれしかった。根尾選手の曲というのも知っています。根尾選手はどのポジションもできて、すごい。尊敬しています」と語った。6回に「パワプロ」を流された吉納(よしのう)翼外野手(2年)「僕なんかで申し訳ないと思いました。ストライクを見逃したときに気付いて、高揚しました」。ナインは事前に動画サイトなどで大阪桐蔭の応援風景を確認し「どの曲が流れるのかな」と楽しみにしていたという。

そのブラスバンドを仕切った応援団長が、東邦野球部員の山田斐祐将(ひゅうま)捕手(3年)だった。平成最初のセンバツで東邦を優勝に導いた元中日山田喜久夫氏(47)の長男だ。今回は惜しくもメンバーを外れたが、来場した父と同じアルプス席から必死に声を出した。「父には『どこにいても仕事はしっかり』と言われている。父は日本一の投手になった。自分は日本一の応援団長になりたい。父で始まり、僕らが平成最後を優勝で締めくくりたい」と頂点を見据えた。

30年前、劇的なサヨナラ勝ちで春を制した喜久夫氏も感慨深げだ。「試合に出られない分、戦力になって頑張ってほしい。人間的に成長できれば、それでいいです。背伸びすることなくやってくれている。声を出しているのを見ると『戦力になってくれているんだな』と感じました」と、息子の姿を見つめた。