センバツを発信地に突如わき起こった「サイン盗み」問題。高校球界の人々はどう見たのか? それぞれの考え方に潜入した。猛抗議で騒がせた星稜(石川)林和成監督(43)は29日、日本高野連に謝罪し、習志野(千葉)小林徹監督(56)はあらためて潔白を主張した。

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札幌大谷・船尾隆広監督(47)「事実関係は分からないが、選手たちには誤解を招く動きはしないようにと、今日(29日)伝えた。両ベースコーチには、投球モーションに入ったら声掛けをやめるとか、二塁走者も無駄な動きはしないようにと。(帽子の)つばを触ったりとかも我慢しようと伝えた」

龍谷大平安・原田英彦監督(58)「うちは(選手に、やるなと)言わなくても分かっている。『あそこはやっている』といった情報は入る。都道府県の時点で注意しないといけないこと。高度な野球という意味では(サインが盗まれるとしたら)野球の質が下がっていると言えるかも知れない」

盛岡大付・関口清治監督(41)「うちは、もともとやらない。正々堂々、いつも真正面からぶつかるチームなので。ダメなものはダメ。(前日の騒動を受け)選手には何も言ってません。変に意識させて何か変わってもよくない。普段どおりやろう、ということ」

山梨学院・吉田洸二監督(49)「(前日の騒動を初めて聞き)知らないことにコメントするのは当事者に対して失礼なので、すいません」

筑陽学園・江口祐司監督(56)「もし、私の知らないところで選手がやって勝ったとしても、選手は本当に喜べるのか。大人になった時、ああいうことをやったと心に残ってしまう。マナーは強制するよりも、本人に考えさせることが大事。走者に出たら何をしないといけないか。外野の守備位置を見て、風向きを見て、甘い球が来たらスタートを切って、もっと考えないといけないことがある」

明豊・川崎絢平監督(37)「二塁走者への指導としては、まずサイン盗みを絶対にしないことを徹底。またその紛らわしい行為をした選手は2度と試合には使わないことを伝えている。本来、打者を助けることを考えるより、二塁走者は自分の準備をしっかりしないといけない。状況判断とか、外野のポジションとか自分が走者としてやらないといけない準備をしなさいと指導している。他人の心配をする前に、自分の心配をしなさいと徹底している」

九州の私立強豪校の監督「まず、してはダメと決まっていることをやることはおかしい。もし相手がやっているなと思っても、サインを変えるとか、何とかどうにかしようとするだけです。そういう意味での『防御』はします。カギを破られたら、二重にすればいい。サイン盗みをしてまで勝ちたいと思うのは教育者の立場としてはおかしいと思う。私は生徒が大事だし、勝つために手段を選ばないという考えは教えたくない。監督として選手が大事なのか、勝利が大事なのかの話になる。指導者が成長しないといけない時代に入っていると思います」

◆VTR 28日の星稜-習志野の2回戦で、星稜・林監督が4回表に習志野の二塁走者にサイン伝達行為があったと抗議した。4回表、1死二塁で、星稜側は球審に二塁走者の動きにサイン伝達の疑いがあると発言。その後も星稜側が不満の色を見せ、審判団が協議したが判断には至らず。試合後、林監督が2回も習志野の控室に乗り込み、小林監督に直接訴える異例の事態に発展。大会審判委員はサイン伝達はなかったと結論した。

◆サイン盗みを疑われる行為の根絶は、高校野球の指導の現場にとって難問だ。ある強豪校の指導者は「一定の明確なルールを決めていただくしかないのでは。そうなれば、現場はルールに沿って試合ができるように準備します」と語る。ちょっとした動作を伝達行為と疑われるようになると、二塁走者の動きそのものが制限を受け、大胆に動けなくなる。野球本来の面白さも失われかねないだけに「簡単に答えは出ない」とため息しきりだった。

◆サイン盗み 走者やベースコーチなどが相手捕手の出すサインなどから球種を読み解き、帽子やユニホームの特定部分を触ったり、特定の動きをするなどして打者に伝達すること。球種解読までは出来なくても、捕手のミットの位置から予想される投球コースを伝えることも含まれる。捕手、打者の正面に位置する二塁走者から伝えられるケースが多いとみられる。高校野球では罰則はないが98年から禁止されており、疑わしい行為は注意される。プロ野球では、セ・パともにアグリーメント(申し合わせ事項)で禁止されている。