吉田輝星(現日本ハム)を擁して昨夏甲子園で準優勝した金足農は今夏、声で主将がチームをけん引する。

第101回全国高校野球選手権秋田大会の組み合わせ抽選が20日、行われた。船木弦外野手(3年)は1月に転換性障がいを発症。今も左足が不自由のままだがベンチ入りし、昨夏あと1勝で届かなかった全国の頂点へ挑む。山梨、佐賀、熊本でも抽選会が行われた。

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船木主将が「カナノウ旋風」を声で巻き起こす。抽選会後にグラウンドに戻り、左足を引きずりながらも、声で仲間を鼓舞。「生きていられること、その中で野球ができることが幸せだと感じられている。最初は悔しかったけれど、光を見つけなきゃと思った。最後の夏にみんなをしっかり盛り上げたい」。プレーはできなくても、中心選手に変わりはない。

今年1月7日、練習のランニング中に突然倒れて意識を失い、救急搬送された。診断は「転換性障がい」。意識が戻った時は病床。「あれ、足がない? と思った」。布団を上げて足の存在は確認したが、感覚はまったくなかった。5月上旬まで車いす生活。春の中央地区大会も特例でベンチ入りが認められたが、秋田南との初戦でコールド負け。一時は車いすラグビーなどの競技転向なども考えたが、仲間との野球を諦められなかった。歩行器使用後、つえが取れて自力歩行可能になったのは今月上旬だ。

昨夏の甲子園準優勝メンバー。出場はなかったが三塁コーチとして信頼は厚かった。中泉一豊監督も「チームのために厳しいことも言える唯一の存在。絶対に必要な存在」と戦力として揺るぎはない。

12日には日本ハム吉田輝の初登板初勝利を部員全員でテレビ観戦。船木は「自分たちも頑張る勇気をもらった。自分も子どもや高校生、大人を含めて、いろいろなことを伝えられる人間になりたい」。新チーム以降、公式戦はわずか1勝。どんな逆境にも立ち向かい、再び輝いて見せる。【鎌田直秀】

◆転換性障がい 神経学的検査によって説明できない神経症状を示し、歩行障害やまひ、発作などを起こす。ストレス等が主な要因とされる。思春期や成人早期が多く、発症は突然。男性よりも女性患者が多い。治療の薬物はなく、精神面での不安解消等を含め、時間をかける必要がある。