幻となったセンバツ開幕日、球児たちが前へと踏み出した。新型コロナウイルスの感染拡大で大会史上初の中止となった第92回選抜高校野球大会に出場予定だった花咲徳栄(埼玉)が19日、同校のグラウンドで模擬開会式を行った。センバツ用に新調した背番号付きのユニホームを着て入場行進し、校歌を斉唱。学校職員ら約50人が見守る中、夏に向けての再スタートを切った。

   ◇   ◇   ◇

「第92回選抜高等学校野球大会花咲徳栄高等学校、入場行進を行います」。司会役の女性職員が宣言すると、スピーカーから入場行進曲「パプリカ」が流れた。開会式の開始時間と同じ午前9時。右翼後方から選抜旗を持った井上朋也主将(2年)を先頭に、ベンチ入り予定だった18人がかけ声を出しながら堂々と歩いた。本塁付近に整列し校歌斉唱。静かなグラウンドで1人1人が気持ちを整理した。

11日に大会の中止が決まった。史上初の事態に動揺する選手もいた。模擬開会式3日前の16日、エース高森陽生投手(2年)は「去年の夏の甲子園は自分が打たれて負けた。センバツで忘れ物を取りに行こうと思ってやってきたので、正直受け止められない自分もいました」と素直な気持ちを明かした。

この経験を簡単に終わらせない。異例の試みはナインの精神的な成長を期待した岩井隆監督(50)が発案した。「甲子園を教えたかった。経験をすることが節目。節目が多い人間は強くなれる。もう1回あそこに帰りたいという気持ちが強くなりました」。13日には模擬抽選会も行い、本番さながらの日程をこなした。

模擬開会式後、レギュラー対控え選手の紅白戦を行った。5-6で控え組がサヨナラ勝ち。指揮官は「選手たちの雰囲気が普段と全く違った。これが本当の実力かと、とても頼もしかったです」と目を細めた。公式戦用ユニホームもこの日限り。夏へ向けてレギュラー争いが再び始まる。

行進や紅白戦を見守った関係者からは再三、選手を鼓舞する拍手が起こった。高校通算47本塁打でプロ注目打者でもある井上主将は「個人的にも気合が入りました。1つの区切りとして、また全員で頑張っていきたい。夏甲子園に出て、今日の感謝を恩返ししたい」という。現在、練習は寮生のみ。通学している選手たちは自宅待機の状態だ。1日も早く全員そろって野球ができることを祈りながら、甲子園に戻るための1歩を踏み出した。【湯本勝大】

○…センバツでもプラカード係を務める予定だった、花咲徳栄ボクシング部の高橋美波さん(2年)が行進を導いた。制服に野球部の帽子をかぶり「とても光栄でした」と喜んだ。自身は昨秋の全国大会で優勝。出場予定のボクシング選抜大会が中止になっていた。「甲子園に出られなかったのはとても残念でしたけど、野球部は新しい目標に向かって頑張っている」と刺激を受けていた。