東京・町田の日大三グラウンド。7日の練習始めに集まった選手たちの顔には、昨年までとは違う自信がみなぎっていた。あの2週間を乗り越えたから-。

   ◇   ◇   ◇

ゆずの「栄光の架橋」が流れる中、選手たちが手をつなぐ。中堅から、保護者が見守るネット裏に向かって、最後の80メートル走を終えた。「よっしゃー!」。誰からともなく声が上がり、涙があふれ出た。

昨年12月15日から2週間にわたった恒例の冬合宿。最終日の28日は、午前5時46分からの12分間走で始まった。まだ夜明け前。真っ暗なグラウンドを照明が照らす。選手たちの息づかいと、小倉全由監督(63)の激励の声だけが響いていた。

ジャンプ走、30メートル走、60メートル走…。ダッシュ系メニューが続く。7時20分、すっかり明るくなった頃、45人は全てを終えた。小倉監督は「最後まで、みんなよく頑張ってくれました」と心からねぎらった。

“地獄”とも称される2週間。なぜ、そこまで追い込むのか? 小倉監督は「自分で『強くなった』と思ってほしい。達成感を味わってほしい」と狙いを明かした。自らの高校時代の経験に基づく。当時の日大三は、年末から静岡・伊東キャンプを行っていた。正月返上で鍛えられた。「俺たち、やり切ったぞと。あれで強くなれた」。

ただ、今回は事情が違った。疲労で免疫力が下がるのではないか? コロナ禍の中で、やるべきなのか-。悩んだ末、小倉監督は決行した。早朝練習を従来の3勤1休から2勤2休に減らし、室内練習場の換気にも注意を払った。毎朝の検温も欠かさなかった。保護者、OB、マネジャーに、引退した3年生たちも応援に駆け付けてくれた。多くの協力を得て、この冬も特別な2週間を過ごせた。山岡航大主将(2年)は「やり切りました。夏に向けやっていきます」と晴れやかな顔で言った。