みちのく新怪物伝説はまだまだ序章だ。プロ注目のノースアジア大明桜(秋田)風間球打(きゅうた)投手(3年)は、一冬を越えて最速153キロ右腕へと変貌を遂げた。昨夏の県独自大会準々決勝でマークした150キロを3キロ更新。無限の可能性を秘める17歳は、「夏までに158キロを出したいです」と高らかに宣言した。【取材・構成=山田愛斗】

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球打が「火の玉」ばりの直球でマウンドの支配者になる。長かった秋田の冬が明けてまだわずか。春の訪れとともに剛腕が飛躍を予感させた。3月の関東遠征中に行われた強豪校との練習試合。182センチの長身から投げ込んだ渾身(こんしん)の1球は「今までになかった感覚でした」。明桜のスピードガンで153キロを計測。元阪神の藤川球児氏をほうふつさせる、浮き上がるような真っすぐが打者に襲いかかった。

風間 ストレートは低いところから伸びて上がるような感覚で投げています。自分のリリースポイントはかなり高いが、前で離してスピンをかけ、低めから高めに、というイメージです。

入学時から身長は全く同じで体形はほぼ変わらない。もともと細身で体重が増えづらい体質。冬は2年連続で増量を掲げ、食堂の大盛りご飯をほおばったが、体重は1キロ増にとどまった。「体重が増えない分、体の切れを出すこと、フォーム改造を重点的にやりました」。今冬の練習は短いダッシュなどランニングメニューを中心に、1日の走行距離は計2キロを最低ラインとして「結構走った感じはあります」。下半身を鍛え、軽めの重りを使ったウエートトレーニングもこなして基礎体力強化を図った。

3月のセンバツはテレビで観戦した。聖地甲子園で躍動するライバルの姿はうらやましくもあり、やる気がみなぎる原動力にもなった。特に刺激を受けたのは力強い直球が持ち味の市和歌山・小園健太、天理(奈良)達孝太(ともに3年)の両右腕だ。

風間 (センバツに出場した選手に)正直、負けたくないなという気持ちはあるし、「自分もあれぐらい投げられるぞ」と思ったが、見習いたい部分はたくさんある。甲子園で投げたかったけど、まだ夏のラストチャンスが残っているので、そこを目指してやっていきたいです。

昨年は、西武今井達也投手を参考にフォーム改造に着手。今年はセンバツで主役の1人だった同級生から学ぶ。「小園投手のフォームがいいなと思って、まねしつつ、自分に合うようなフォームに固めるようにしています」。試行錯誤を繰り返し、ひたすらにベストを追求する。

昨年7月の県独自大会では「明桜140キロ超えカルテット」の一角として2試合に登板した。計3回2/3を無安打無失点9奪三振と完璧な投球を披露し、優勝に貢献。準々決勝では当時の自己最速を1キロ更新する150キロをマークし、県内では18年の金足農・吉田輝星投手(現日本ハム)に次ぐ大台を刻んだ。同8月の夏季東北大会準決勝では宮城王者の仙台育英戦で先発。強力打線を相手に6回1安打1失点に封じた。

同9月の秋季県大会地区予選1回戦では夏の勢いそのままに、公式戦初完投初完封を15奪三振で飾った。しかし、本戦の県大会1回戦では延長13回タイブレークの末に敗退。3番手で登板し、10回2/3を2安打1失点(自責0)12奪三振で力投したが、実らなかった。

風間 去年は球に勢いがなく、球速が出てても打たれることがあった。変化球もあまり完璧ではなかったし、去年のままなら今年も負けてしまうので、この冬やってきたことをしっかり出し、成長した姿を見せたいです。

中学3年で最速135キロ、高校1年で同138キロ、同2年で同150キロと順調にステップアップしてきた。「球速は思いどおりというか、自分が思った以上に上がった印象です。体格的にも変わってないので、その要因はどうなんですかね?」と笑い、自分が想像する斜め上を突き進む。

進化しているのは直球だけではない。昨年の変化球はスライダー、フォークの2球種のみだったが、新たにカーブとチェンジアップを習得した。

風間 2球種だけなら打者が絞りやすいので増やしました。カーブはストレートと勢いが違って振りが弱くなってしまい、見極められるというか、ばれてしまう部分があるので改善中です。チェンジアップはすんなりできました。

新球種の精度向上と同時に変化球のストライク率も高める。「去年は大きく曲げて(ストライクが)入らなかったので、今年はスピードを出して、ちょっと曲がる感じで『速い変化球』のイメージです」。公式戦での完投は昨秋の1度のみで、スタミナ強化も欠かせない。「まだあまり長いイニングを投げてないので、これから増やしていきたいです」。エースとして1人で投げきる能力も磨く。

5月1日からは春季県大会地区予選が始まる。「最近は投げる感覚もいい感じなので、大会に合わせてさらに調子を上げたいです」。春の目標は明確で「個人としては長いイニングを無失点に抑え、チームとしては県大会で優勝し、春の東北大会に出られればと思います」と力を込める。

夢はプロ野球選手一択だ。高卒、大卒どちらで挑戦するかは現時点で未定だが、「スーパー1年生」からあっという間に最高学年となり、「少しずつプロの夢に近づいている実感はあります」。昨夏は「高校3年で155キロ」に照準を定めたが、目標を上方修正。さらなる高みを目指す。

風間 気持ちの面で「球速を出すぞ」と思って投げると、球にも勢いが乗る感覚があります。今年は春に155キロ、夏には158キロを出したいです。

本年度の高校3年は市和歌山・小園、中京大中京(愛知)畔柳亨丞(くろやなぎ・きょうすけ)、大阪桐蔭・松浦慶斗、関戸康介、高知・森木大智ら最速150キロ超えの逸材ぞろいだ。風間は全国デビューこそまだ果たせていないが、日本中にその名をとどろかせる日は遠くない。令和を代表する剛腕への道を秋田から1歩1歩着実に歩む。

◆風間球打(かざま・きゅうた)2003年(平15)10月11日生まれ、山梨県甲州市出身。奥野田小1年時に野球を始め、同3年時から投手に転向。塩山中時代は笛吹ボーイズでプレー。明桜では1年春からベンチ入りし、同春の地区大会決勝で初登板。182センチ、80キロ。右投げ左打ち。家族は両親、長男球道(きゅうどう)さん、次男球星(きゅうせい)さん、四男球志良(きゅうしろう)さん。