熾烈(しれつ)を極めた選考レースはもう始まっている。今春センバツ8強の仙台育英(宮城)は3日、同校グラウンドで紅白戦を行った。

現在は春の宮城県大会の各地区予選が中止となり、対外試合の自粛を余儀なくされている。そこで同校では4月から部内リーグ戦を開催。上からA、B、C、Dのチームに実力順に野手10人を振り分け、投手陣は各チーム5人。まず、選手が“ドラフト指名”し、競合抽選で2投手を選んだ。残りの3投手はウエーバー制を採用。そして、リーグ優勝チームは春の県大会(5月13日開幕、仙台市民球場、石巻市民球場)の試合に優先的に先発起用される。先発起用をかけた4チームによる「ガチンコ勝負」は、県大会前まで続く。

3月30日。準々決勝で天理(奈良)に3-10と完敗し、東北勢悲願の甲子園優勝とはならなかった。須江航監督(37)は「第三者的な目線から仙台育英を見た時にどうなのかというと、自分たちの展開に持っていければ力を発揮するが、思い通りの展開にいかなかった時は弱い。想定した試合プランから外れた時に、はね返す本当の強さがない。だから、それを意図的に作る必要がある」。その一環として行うのが部内リーグ戦だ。Aチーム(現時点のレギュラー陣)は、残りの3チームからの追い上げをはね返さなければならない。この日で4試合を戦い、A、Bが3勝1敗で首位に立っているが、CはAから勝利するなど白熱している。

須江監督 監督の役割はモチベーターだからモチベーションの上がることを、どんどん提供していかないといけない。今からでも、誰にでもメンバーになれるし、落ちることもある。予想を覆すことを期待している。自分の可能性に限界を感じないで、ふたをしないでほしい。

選手の無限の可能性に大きな期待を寄せている。

特別ルールが、投手陣の底上げにつながる。リーグ戦の期間は各チームの5投手が最低21人の打者に投球しなければならない。1人のエースに頼ることはできず、先発をはじめ継投策も含めて選手自らで判断する。指揮官は「必ず複数の投手が投げなければならないので、投手のレベルは必然と上がります」。今春センバツ直前でメンバー落ちした186センチ右腕、中村和寛(3年)が自己最速を1キロ更新する146キロをマークし、エース伊藤樹投手(3年)は自己最速149キロを計測した。チームの課題でもある左投手の台頭も目立つようになってきた。公式戦未登板の2年生左腕・斉藤蓉は左のエース候補に急成長。1年生左腕コンビの仁田陽翔と田中優飛は、上級生相手にも堂々の投球を披露し、メンバー入りは拮抗(きっこう)している。

完全実力主義。4月に入部したばかりの1年生にも結果次第ではチャンスがある。2試合目にCチームで「3番二塁」で先発出場した齋藤陽内野手(1年)は左打席から右中間を破る三塁打を放つなど、3安打猛打賞の活躍を見せて新戦力候補に浮上している。須江監督は「1年生もおそらく春(の県大会に)出場します」と示唆した。

東北勢悲願の日本一を達成するため、須江監督は常に言い続ける。

「チーム内競争がどこよりも厳しくないといけない。そして練習に活気があり、全選手にモチベーションがあるような状態をつくらないといけない。(メンバーについては)1度も日の目を見なかった選手が、日の目を見るようなシステムをつくらないと、それ以上にチームに推進力を生むことはない。センバツメンバーに『夏勝つぞ』と思わせたくない。夏勝つ前にチーム内で勝てと。何の身分の保証もないってことです。まだまだ実力を上げてから、相手に挑まないといけないんだってことを理解してほしい」

今夏、日本一のチーム内競争の先に高校野球の歴史が塗り替わったことを証明する。【佐藤究】