大宮東のエース左腕・冨士大和投手(2年)が6安打13奪三振で完封勝利を挙げた。今秋ドラフト候補に挙がる兄のヒントで生まれたルーティンで9回118球を投げ抜いた。ピンチでは「必殺技」のけん制球を繰り出し反撃を許さなかった。
1点リードの6回2死一、三塁のピンチの場面だった。埼玉平成4番の和田との勝負。まっすぐ打者をにらみ、右足を上げた冨士が投じたのはホームではなく一塁だった。けん制タッチアウト。息詰まる状況で「ここしかない」と冷静に奪ったけん制死だった。5回も先頭打者に安打を許すも、「必殺技」で仕留めた。元々けん制は得意ではなかった。しかしこれまで足で崩される場面が多いと感じ、走者をわなに掛けるための首の動きを猛練習。大きな武器を手にし、「苦手だったけど練習をして、がんばって、うまくなりました」と絞り出した言葉に努力の跡がうかがえる。
常にセットポジションで投じる冨士には毎球行うルーティンがある。捕手のサインにうなずきセットに入る直前、両腕を後ろに引き、胸を大きく開く。胸郭を広ることで、右足を上げる際に猫背になる癖を改善するためだ。この動きは兄で今秋ドラフト候補に挙がる平成国際大・冨士隼斗投手(4年=大宮東)からヒントをもらって生まれた。
今夏までは右肘と右膝をくっつけるようなルーティンだった。しかし夏の大会中にボークの可能性があると審判に指摘され「何かルーティンを作りたい」と大会後から試行錯誤を重ねた。普段はほとんど連絡を取らない兄に教えを求めると「猫背になってるから、それを治すのがいいんじゃないか」と一言。その言葉をヒントに、新たな型にたどり着いた。「猫背にならずに投げられるので、肩肘の負担も減って、より胸を張って投げられるようになった」とこの日も118球を難なく投げ抜いた。
2度の3者連続三振を含む13個の三振を奪う完封勝利にも満足はしていない。次戦は27日にベスト8をかけ、甲子園出場5回を誇る聖望学園と、今夏県4強の川越東の勝者と対戦する。難敵を前に「少し球が上ずってしまった場面もあったので、次はそこを修正していきたい」と引き締めた。今春は県4強で関東大会を逃し、夏は5回戦で涙をのんだ。悲願の甲子園へ、目の前の打者と走者から27個のアウトを積み重ねる。【黒須亮】