<高校野球北神奈川大会:慶応9-6東海大相模>◇27日◇決勝

 陸の王者が46年ぶりに夏の甲子園出場を決めた。慶応(北神奈川)が延長の末、東海大相模を9-6で振り切り、春夏連続、夏は62年以来17度目の甲子園切符を手にした。延長13回、福富裕三塁手(3年)の右中間適時三塁打などで急きょ登板したプロ注目スラッガー大田泰示遊撃手(3年)から3点を奪い、7回からマウンドに上がった只野尚彦投手(3年)が踏ん張って4時間20分の激闘に終止符を打った。慶応は大会4日目(8月5日)に松商学園(長野)と対戦する。

 46年間の思いを込めた打球だった。延長13回2死二塁。慶応の2番福富は、急きょマウンドに上がった東海大相模・大田の投じた144キロ直球をはじき返した。「後ろがいるからつなげようと思った」と振り切った打球が右中間を破り、待望の勝ち越し点が入った。一塁側ベンチの慶応ナインが両手を高々と突き上げる。スタンドでは赤いメガホンが揺れ動く。続く山崎錬主将(3年)が右翼スタンドに運んで2点を追加。4時間20分の死闘を制した。上田誠監督(50)が3度宙を舞った。

 「エンドレスで行こうぜ!」「ギャンブル、ギャンブル」。逆境でもナインの明るい声が飛んだ。2点を追う土壇場の9回。「10回やって、1回勝てるかどうかの相手。勝負をかけるしかありませんから」と積極的に打って出た。3番山崎の二塁内野安打と4番鈴木裕司(一塁手)の中犠飛で同点に追いついた。投手陣も粘り抜いた。9、11回の一打サヨナラ負けの窮地では東海大相模・大田を2度敬遠。「悔しかったけど、フォア・ザ・チームですから」と救援の只野。あと1勝への執念をみせた。

 16年の第2回大会では優勝を飾った古豪だが、62年以降は夏の神奈川大会で初戦敗退の苦汁を何度も味わった。受験難関校の宿命だった。そこで学校に活気を与えるため、03年から推薦入試制度が導入された。野球部にも全国レベルの選手が毎年10人前後入部するようになり、復活への歯車が回り始めた。05年には45年ぶりにセンバツ出場を果たして8強入りし、夏の神奈川大会で準優勝。今春センバツにも出場するなど着実に力を付けてきた。

 18年前から指揮を執る上田監督は、以前から練習メニューを英語でボードに書くなどメジャーの豪快な野球を意識させていた。また長さ3メートルの竹の棒を振らせて長打力を養う以前からの練習も続けている。前日(26日)には03年ワールドシリーズ「マーリンズ対ヤンキース」のビデオを選手に見せた。シリーズで敗れたヤンキースと同じピンストライプの東海大相模とダブらせ、選手の士気を高めさせた。野球部OBの期待と失望とも戦ってきた上田監督は「夏は優勝しないと甲子園には行けない。勝って甲子園に行ってこそ、価値があります」と言った。和洋折衷、伝統と革新が夏の甲子園につながった。

 今春のセンバツの雪辱もある。初戦で21世紀枠の華陵(山口)に0-1で敗れた。まとまらないチームにメジャー(1軍)とマイナー(ベンチ外)の深い溝ができてしまった。だが思いは「もう1度甲子園に行きたい、だった」と山崎主将。選手だけのミーティングを繰り返し、時には4時間を超えた。ベンチ入りできなかった3年生が中心となって他校のデータ収集に奔走するなど裏方に徹し、チームは再び1つになった。

 「まずは1勝。そこに全力投球をしたいです」と上田監督が言えば、山崎主将も「悔しい思いをしましたから、全員野球で戦います」と力強く言った。聖地でナインは若き血をたぎらせる。【横山元保】