<センバツ高校野球:遠軽3-0いわき海星>◇23日◇1回戦

 遠軽(北海道)が大会初の21世紀枠対決を制し、日本最北勝利を挙げた。同じ初出場のいわき海星(福島)を相手にチームモットーの「マン振り」を貫き、2度の1死三塁の好機もスクイズなし。6回裏2死一、二塁から4番柳橋倖輝三塁手(3年)の中越え適時三塁打などで3点を先制すると、エース前田知輝(3年)が散発3安打無四球で完封した。夏の北北海道決勝で過去4度敗退し、あと1歩で逃してきた甲子園で1時間16分の全力プレー。雪解けが遅れる北海道にすがすがしい「春」を届けた。

 21世紀枠でつかんだ初の大舞台は笑顔で始まり、笑顔で終わった。試合開始前、遠軽ナインは晴天の空を全員で見上げた。「甲子園を楽しもう」。その1時間16分後には、笑顔で一塁側アルプススタンドに全力で走っていた。卒業生たちが、野球部OBたち約1500人が、感涙の拍手で迎えた。この日のために、このときのために練習を積み、つかんだ甲子園1勝。「最高」。殊勲の柳橋主将は、言葉では言い表せない感動に浸っていた。

 「マン振り」で試合を決めた。4回裏1死三塁のチャンスでスクイズはなし。先制した6回裏も1死三塁でバントのうまい2番遠藤和貴二塁手(2年)に回ったが、スクイズはなかった。投ゴロで好機を逸したかと思えたが、四球を挟み2死一、二塁で4番の柳橋がチームのモットーをバットに込めた。いわき海星・鈴木投手の甘く入ったスライダーを思い切りたたくと、打球は中堅手のグラブ先を越えて行った。走者一掃の2点適時三塁打。中継プレーが乱れる間に自身で3点目のホームを踏んだ。「後ろにいい打者がいるのでつなごうと思いました」と振り返った。

 前夜ミーティングで佐藤貴之監督(41)は「いつも通りにプレーするな」と話した。「えーっ」、ナインは一瞬ざわめいた。8日からの対外練習試合では1試合で失策が5、6個出たこともあったからだ。しかし、本番では佐藤監督の心配をよそにハツラツプレーを見せた。まず、柳橋がやってみせた。3回表1死三塁のピンチで三塁線への強烈な打球を横っ跳びで好捕。続く打者の難しい打球もうまく処理した。佐藤監督は「奇跡とまぐれです。運も味方してくれました」と勝利監督インタビューで謙遜したが、この試合は1失策(9回走塁妨害)でエース前田をもり立てた。

 雪はハンディではない。いわき海星が東日本大震災で被災し、逆境のなかで立ち上がったように、遠軽は極寒を楽しみに変えた。オフは3万回スイングを目標に、ティー打撃の打球速度を定期的に測定した。練習に競争原理を取り入れ、甲子園メンバーも決めた。月に1度は「食力会」を行い、大いに食べて体づくりに取り組んだ。

 過去4度、夏の北北海道大会で決勝敗退の屈辱を味わった。「私学に勝つには打ち勝つしかない」と打撃重視のチームづくりをした。この試合、4回に右中間三塁打を放った荒谷偉吹左翼手(3年)は打球速度MAX157キロ、前田と並ぶマン振り男だ。柳橋は140キロ台だが「チーム平均値はこれまでで1番高い」と佐藤監督は打力に自信を持つ。

 試合時間は1時間16分、大会史上2番目の速さだった。戦後に限れば最短時間ゲーム。両チームともに全力疾走、さわやかな春風が走り抜けたような試合だった。大会第7日の2回戦は3季連続制覇を狙う大阪桐蔭と対戦する。「全国屈指のチームとここで試合ができる。どこまで通じるか挑戦です」と柳橋は戦闘モードに切り替えた。【中尾猛】

 ◆甲子園の最北勝利

 これまでの最北出場は67年夏、70年春の網走南ケ丘(北緯44度01分)で、今回の遠軽(同44度03分)はこれを上回る。過去センバツでの最北勝利校は、7勝を挙げている駒大岩見沢(同43度10分)だった。夏は旭川実(同43度48分)が最北。