イチローのメジャー通算3000安打を祝うセレモニーが行われた4月最終日、マーリンズパークで野球殿堂のジェフ・アイデルソン館長にお会いした。08年から同職に就くアイデルソン氏は、最近ではメジャー専門テレビ局MLBネットワークで殿堂入り発表特番のプレゼンターを務めるなどしているためファンの間でもおなじみかもしれないが、普段は裏方に徹しながらさまざま場所に出没する。

 イチローが通算3000安打に近づいていた昨年7月にも、同氏は連日、マーリンズパークに来ていた。仕事上、大記録に立ち会うために来ていたのだろうが「仕事というよりプライベート」と話していた。今回の祝典も「もちろん、セレモニーのためです」と球場に再び出没。セレモニー中は、ホームプレートから数メートル離れたバックネット付近で、祝典の一部始終を見守っていた。

 メジャー移籍以来、野球殿堂を何度も訪れているイチローと同氏の結びつきは深い。昨年6月にイチローはUSAトゥデーのベテラン記者ボブ・ナイチンゲール氏に「僕が死んだら、僕の遺品はすべてジェフ(アイデルソン氏)と野球殿堂に寄贈するよう、お互いの間で了解している。もしかしたらジェフの方が先に逝くかもしれないが、僕のすべてのものは殿堂にいく」と話しているが、そのことからも互いの信頼関係の強さがうかがえる。歴史というものは、歴史をつくる人がいなければもちろん始まらないが、それを目撃し後世に語り継ぐ人物がいることも重要であるとすれば、アイデルソン氏ほどメジャー史の語り部としてうってつけの人物はなかなかいないだろう。

 そんな同氏が今春、訪日し、WBCや日本の野球を視察した。米国でも有名な高校野球の舞台をぜひ見たいと甲子園球場も訪れ「高校野球は観られなかったが、プロ野球の阪神戦を観た。球場は素晴らしかったし、ファンの熱狂、選手ごとに違う応援歌、どれも新鮮で面白かった」と話していた。メジャー移籍が確実視される日本ハム大谷についても情報収集したそうで「彼の存在がいかに大きいか、日本にいて肌で実感した」という。二刀流という希少な選手が海を渡りメジャーで新たな歴史をつくっていくかもしれないとすれば、メジャー史の語り部としての同氏の仕事は、すでにスタートしているのかもしれない。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)