カブスのエース左腕ジョン・レスターは、けん制イップスとして知られている。今季で自身7度目の開幕投手に選ばれたメジャー13年目のベテランで、マウンドでは強心臓で長年エースを張るほどの安定した投球を続けているが、一塁への送球、けん制だけはなぜかできない。

 しかし今季は、それを克服すべく新たな送球テクニックを習得中だという。普通に投げることができないため、最初から狙ってワンバンのボールを投げる送球方法だ。

 このキャンプ中は、バターフィールド三塁コーチと二人三脚でワンバン送球の練習に精を出し、オープン戦登板中に試投もして精度を上げている。かつてNBAシカゴ・ブルズのスーパースターコンビ、マイケル・ジョーダンとスコッティ・ピッペンが華麗なワンバンパスで知られたことから、レスター自らその送球テクニックを「ジョーダン・ピッペン・バウンド・パス」と呼び、イップス克服のこの名案を気に入っているようだ。

 レスターがなぜ一塁送球イップスになったのか、自身は一切明かさないが、これまでかかわってきた周囲の人々からいくつかの説が出ている。例えば、レスターがデビューした06年から7年間レッドソックスで指揮を執ったテリー・フランコナ監督(現インディアンス)の説は「10年のシーズンオフ、レスターが故郷に帰っている間にけん制球を投げる練習を集中的に行い、やり過ぎたことが原因でイップスになった」というものだ。

 翌11年のシーズンに入り、確かに一塁への送球難を周囲が気づくようになり、何度やってもできないため、同監督が一切、一塁へ投げさせないようにした。他球団は12年頃から気づくようになり、レスターのけん制の回数はどんどん減って14年にはとうとうゼロに。しかしそのシーズンにレスターから盗塁を試みる走者は12・5回に1人程度だったため、大きな問題にはならなかった。

 ところがカブスに移籍し初めてナ・リーグでプレーすることになった15年、開幕戦でカージナルスがレスターに対して4度、その後ブルワーズが1試合に6度盗塁を試みるなど、同地区ライバルが積極的に走る戦法を取ってきた。そこで思案した結果、今季からワンバン送球テクニックを初めて本格的に習得することになったようだ。投げるアングル、視線の向きなど研究を重ねてすでに自信を深め「もうバント安打を狙われても問題ない。むしろどうぞという感じ」と話している。

 イップスのせいで野球人生が終わってしまった選手がメジャーに何人かいる中で、レスターのように生き延びている選手は珍しい。新たに身につけた送球テクニックでイップスを完全に克服できるのか、今季に注目したい。