ブレーブスの二塁手オジー・アルビース(AP)
ブレーブスの二塁手オジー・アルビース(AP)

開幕間もない4月半ば、次代のスター予備軍でブレーブスの二塁手オジー・アルビース(22)が球団と7年3500万ドル(約38億5000万円)の長期契約を結んだ。今後の飛躍が期待される選手にしてはあまりに格安の契約だったため大きな話題になったのだが、アルビースは「僕はお金のためにプレーしているわけではない」と言い放ち、球界にさらなる衝撃を与えた。

もちろん「お金のためにプレーしている」とあからさまに発言する選手もいないのだが、契約金や年俸の大きさは選手の格を示すというのが野球界(恐らく他のスポーツ界も)の常識。高額契約を目指すことはすなわち、選手として高いレベルを目指すことを意味する。

しかもメジャーの選手会というのは「世界一強い労働組合」と呼ばれるほどの存在。選手が格安契約を結ぼうものなら「他の選手に悪影響」という理由で、その選手に圧力をかけることもある。そんな空気の中で「僕はお金のためにプレーしない」などと公言することは、これまでなら考えられないことだった。

恐らく「金額が選手の格を表す」という考えは、これから廃れていくのかもしれない。この春、アルビースのようにメジャー経験の浅い有望な若手が長期契約を結ぶケースが続出したが、ほとんどが割安と感じる内容で、彼らが金額の大きさや、それによって誇示できる「格」にこだわっていないことは明らかだ。

安過ぎるという批判が巻き起こる中、本人たちは至って冷静で堅実思考。アルビースは「僕は、契約を金額だけでとらえていない。お金のためにプレーしているわけではなく、自分の野球人生のためにプレーをしている。そして僕の家族に安心を与えるためにプレーしている」と話しており、すぐに長期間の保証が得られれば、家族に安心を与えられるという思いがあるようだ。

今月上旬に5年の延長契約を結んだブルージェイズのランデル・グリチェック外野手(27)も米ニュースサイト「ファイブサーティエイト」で「家族に楽をさせてやりたいというのがある」と明かし「少しでも大きい金額をと望めば、それを得られる選手はいるが、実際1億ドルと2億ドルに何の違いがあるのかとも思う。孫の代まで働かずに食べていけるという状態が、ひ孫の代までになるかもしれないというくらいか」と話している。

若手選手の長期契約ブームは、メジャーで3年プレーし、年俸調停権を得た選手の年俸が高騰しているため、それを抑えたい球団側の思惑が絡んで起こっている現象ともいわれる。だが、若い世代の堅実思考も、このブームに拍車をかけているのではないだろうか。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)