本来なら今月7日からウインターミーティングが行われるはずだった。

毎年恒例の野球界最大のイベント。野球にかかわる世界中の人々が一カ所に集まり、開幕とオールスターとポストシーズンが一遍にきたような華やかさと熱気を感じる1週間。それが今年はコロナ禍で中止となり、開催予定地だったテキサス州ダラスに人が集まることはない。GMら各球団の編成トップはオンラインで会見を開くそうだが、リモートだけではやはりウインターミーティングの臨場感は得られない。

昨年のウインターミーティング初日に会見を行うエンゼルスのジョー・マドン新監督(2019年12月9日撮影)
昨年のウインターミーティング初日に会見を行うエンゼルスのジョー・マドン新監督(2019年12月9日撮影)

数年前にテネシー州ナッシュビルで行われたウインターミーティングに取材に行ったが、それは一生の思い出に残るような体験だった。

会場はゲイロード・オプリランド・リゾート・アンド・コンベンションという、ホテルと会議場、遊技場や植物園、ショッピングセンターと飲食店街がすべてそろった巨大複合施設で、広さは約3万6400平米と、東京ドームの約3個分。客室数は2888もあり、世界の巨大ホテルトップ30に入っている。そこまで大きなホテルに泊まったのは初めてで、一言でいうなら小型都市の中にあらゆる施設があり、それが迷路でつながっているような感覚だった。巨大すぎて何度も迷子になり、1日が終わるとスマホの歩行アプリが4万歩を超えていたこともあった。

そうやって歩き回っていると、さまざまな場面に出くわした。球団幹部が別の球団幹部と通路の脇で話し込んでいたり、有名野球ジャーナリストが球団幹部やスカウトと長々と立ち話をしていたりする姿は何度も見かけたし、有名代理人が大勢のメディアに囲まれるのも、その辺の通路の一角だった。メディアにとって、球界関係者と直接話をする機会は、それがたとえちょっとした立ち話の雑談であっても、非常に貴重だ。しかし今は、それができない。早朝にホテル内のジムに行くとヤンキースのキャッシュマンGMに出くわしたりもしたが、そんな貴重な体験もできない。

18年のウインターミーティングでメディアに対して質疑応答を行うスコット・ボラス氏(2018年12月13日撮影
18年のウインターミーティングでメディアに対して質疑応答を行うスコット・ボラス氏(2018年12月13日撮影

スーパーエージェントとして知られるスコット・ボラス氏(68)も先日、ロサンゼルス・タイムズ紙でウインターミーティングがオンラインのみで行われる現状を嘆いていた。球団側はオフにどのような動きをしているのかを公表したがらないため、それを取材するメディアの存在は貴重で、メディアを通して情報が出ることでストーブリーグは盛り上がると主張していた。「情報が出ることでファンの期待も膨らむ。興奮が生まれる」という。

コロナ禍の上に、ウインターミーティングの熱気と興奮もない今オフ。SNSを見ると「何も起こらなくてつまらない」というファンの声が目立つ。MLBはコロナ禍でのオフシーズンの盛り上げ方を、もっと考えてもいいのかもしれない。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)