今年の労使闘争は昨年以上に混迷しそうだ。

スプリングトレーニングを目前に控えた段階でまだ、日程を遅らせたいオーナー側と全162試合を行うことで満額給料を得たいため予定通りの開始を主張する選手会で対立し、ナ・リーグのDH制導入を今季継続するかどうかでも、いまだにもめている。

DH制に関しては、選手会は継続を希望しているにもかかわらず、オーナー側が交換条件としてポストシーズンの拡大開催を要望しているため反発。その結果、DH制もポストシーズン拡大も拒否する立場を取っている。

両サイドの対立は、つまるところ利益の奪い合いという様相だが、現行の労使協定ではオーナー側の分が悪い。オーナー陣は、新型コロナウイルス感染拡大がまだ収まらない中でオープン戦やレギュラーシーズンに入ると無観客開催期間が長くなる恐れがあり、そうなれば経済的損失が膨らむことになる。

しかし、現行の労使協定では球団の損失を理由にシーズンを延期したり短縮したりすることができない。他の米4大スポーツ、例えばNBAはチームが経済的損失を回避するために規定を変更することができるそうだが、MLBにはそれがない。延期をするとしたら、キャンプ地のあるアリゾナ州や市、政府の要請があった場合だけ。コミッショナーには、緊急事態の場合に限り規定を変更する権限があるが、現在のアリゾナ州は感染拡大が最も深刻な地域ではあるものの、同州を本拠地とするNBAサンズやNHLコヨーテズは試合を行っているため、MLBだけできないというには、正当な理屈づけが必要になる。

複数の米メディアは25日付で、オープン戦を開催するアリゾナ州のカクタスリーグとアリゾナ州、州内の市が、MLBのマンフレッド・コミッショナーにキャンプを延期するよう要望書を出したと伝えているが、翌26日のジ・アスレチックスでは、実はその要望書は、MLB幹部から出すよう頼まれたからだと暴露された。

カクタスリーグはこの暴露報道を否定しているが、MLBが州主導の形で延期に持ち込むべく暗躍していると勘繰られても仕方がない。

MLBと選手会は、今年12月1日までに新労使協定を成立させなければならず、これからほぼ1年にわたって労使交渉が続く。新協定を不利にさせないためにもどちらも譲らない強い姿勢を貫くことは必至。醜い争いが長く続くことを我々は覚悟しなければならなそうだ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)