エンゼルス大谷翔平投手(26)の破竹の勢いが止まらない今季、遠征の先々で面白い現象が起こっている。2017年オフに大谷獲得を目指していた各球団の地元が、感傷的なムードで「もしウチにオオタニが入団していたら」というファンタジーに浸るという現象だ。大谷争奪戦に積極的に参戦していた球団の地元ファンやメディアは特に、今の大谷の活躍とそのスター性を目の当たりにし、唇をかみしめながら想像を巡らせている。

例えば先日のヤンキースタジアムでの4連戦では、ニューヨークの大半のメディアが大谷を大きく取り上げた。6月29日付のニューヨーク・ポスト電子版では「ショウヘイ・オオタニの圧倒的すごさは、ヤンキースにつらい記憶をよみがえらせる」の見出しで記事を掲載。「ファンは想像力をどこまでも膨らませ、オオタニがヤンキースの一員として別の野球人生を歩んでいたとしたらどうだっただろうかと想像するだろう」とし「彼なら、狭い右翼側のフェンス向こうに打球を飛ばすのも、実に簡単に見える」「ピンストライプを着て、ロジャー・マリスが持つ球団最多、そしてア・リーグ最多の61本塁打記録に挑戦していたかもしれない」などとファンタジーを書き連ねていた。

ニュージャージー州の大手紙の記事を掲載しているニュージャージー・コムは「ヤンキースはまだ、オオタニを獲得し損ねた代償を支払っている。もし獲得できていれば…」の見出しで「ニューヨークで今最高のショーは、メッツのデグロムが5日ごとに先発マウンドに立つ時、クイーンズで見られる。もしオオタニがいれば、最高のショーはヤンキースが提供していたはずだった」と、これまた感傷的に書いていた。

大谷が5月下旬にサンフランシスコに遠征しジャイアンツとの交流戦を戦った時も、地元メディアが大谷獲得に動いた当時のジャイアンツを回顧する記事を掲載していた。当時のGMボビー・エバンス氏とGM補佐ジェレミー・シェリー氏が大谷争奪戦直前の9月にわざわざ来日して視察するなど非常に積極的だったという。「オオタニが他球団で活躍しているのを見るのは、当時や現在の球団幹部にとって、ほろ苦く切ないものだろう」と書かれていた。

レッドソックスのコーラ監督も先日、2017年オフを回想していた。「今でも覚えているのは、シーズンが終わってマイアミの自宅に戻ったら連絡がきて、24時間以内にロサンゼルスに行けるかと言われた。何だって、という感じだったが、行くつもりでいたら数時間後に(大谷獲得交渉の)ファイナリストに残れなかったと連絡があった。我々球団は手の届く位置にはいなかった」と寂しげに語っていた。他球団にとっては、今の大谷の存在はまぶしく、切ないものなのだ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)