多くの人が行き交うリゾートホテルの一角が、100人超のメディアでごった返しになった。通行人が「いったい、誰なんだ?」と立ち止まると、警備員が「そこにいてはダメだ。道を空けて!」と注意する。大勢が取り囲んだ人物はスコット・ボラス氏(66)。メジャー移籍を目指す菊池雄星投手(27)や今オフのフリーエージェント(FA)の目玉、ブライス・ハーパー外野手(26)ら、大物を抱える代理人の元に注目が一極集中した。

現場では、陣取り合戦が取材開始の約30分前から始まった。ベストポジションで撮影しようと十数人のカメラマンが場所を確保。ボラス氏が現れる前から、取材対象者は誰もいないのに大きな人だかりが出来ていた。ウインターミーティングでは毎年、恒例の「ボラス囲み」だそうだ。米王手のスポーツ専門紙スポーツ・イラストレイテッドが“カオス”と表現した光景は、「敏腕代理人」と扱われるがゆえと感じられた。

ボラス氏は荷台に立ち、少し高い位置で“演説”を始めた。質疑応答は1時間超。矢継ぎ早にあちこちから質問が飛んだ。右から、左から、今度は正面から、また右から…。同氏の顔は忙しそうに方向を変えて動き回った。

基本的にはどの質問にも、丁寧に答える印象だ。だが、腹の内は見せない。例えば、メディアから「西海岸のチームが日本人にとっては良いとされていて、それは交渉に影響するか」と問われた。すると「それには(ヤンキースの)田中は例外と言えるだろう。ハッハッハ。どの選手にも選択の自由があるものだ」とサラリとかわしたりする。

そんなボラス氏も、普段の見た目は気前の良いおじさんという雰囲気で、日本メディアに対しては笑顔で「コンニチハ」と日本語であいさつもする。メディア対応を行った巨大クリスマスツリー前で注目を一身に浴びながらも、常に冷静沈着。ゆっくりとした口調が自信を漂わせ、目が合えば何か押されるような眼力がある。これがスコット・ボラスか。そう思わせる公開演説だった。【MLB担当=斎藤庸裕】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「ノブ斎藤のfrom U.S.A」)