巨人の4選手が関わった野球賭博問題を端に、阪神を含め、「声出し」や「ノック」を介して、チーム内で現金のやりとりがあったことが、話題を集めています。賭博行為につながる可能性があるとして、球界内では危機感が募っているようですが、同じようなことがメジャーで取り上げられることは、現時点ではあり得ないような気がします。襟元を正そうとする日本球界の倫理観を否定するつもりは毛頭ありませんし、お叱りの意見も承知の上ですが、現状を「過剰反応」と感じるファンの方々も少なくないのではないでしょうか。

 当然の事ですが、米国でも野球賭博行為は固く禁じられています。実際、4256安打の最多記録を持つピート・ローズは、監督在任時代の「八百長行為」が発覚し、1989年に永久追放処分を受けました。その後、復権への動きはあったものの、現在も認められず、殿堂入りは絶望視されています。

 その一方で、クラブハウス内での現金のやりとりには、常に寛容な空気を維持しています。もともと、米国は「チップ社会」。本拠地、遠征先を問わず、身の回りの世話をしてくれた用具係らスタッフに、現金や小切手を手渡すのは、常識であり、メジャーリーガーとして最低限のマナーです。そんな慣習と同一視するつもりはありませんが、「内輪」での現金のやりとりは、各種イベントのたびに、レジャーまたは余興のひとつとして受け入れられています。たとえば、チーム内の親睦目的で卓球大会やビリヤード大会を開催すれば、各自がエントリー費を払い、上位入賞者に「賞金」として贈られます。そこには、少なくとも「賭博」のような陰湿な空気はなく、あくまでもみんなで盛り上がったり、楽しんだりするためのものとして介在しています。

 米国には、ラスベガスなどのカジノで各種のスポーツギャンブルが合法化されている社会背景があるため、日本の「賭け事」とは一概に比較することはできません。共通するのは、闇社会とつながったり、八百長に直結する敗退行為などが、間違いなく、言語道断ということです。ただ、今回のような事件が起こったことを機に、事細かに「悪性」のカテゴリーを区分けしたうえで、マイナスイメージになるようなことを排除し、万人に対して潔癖さを求めようとする風潮には、どことなく違和感を感じてしまいます。

 繰り返しますが、野球選手のみならず、スポーツマンとして、八百長や敗退行為などの賭博行為は、絶対NOです。その一方で、他者からの批判を気にするあまり、禁止事項ばかりが増えていく社会が、本当の意味で成熟するとも思えません。

 士気を上げる「声出し」が、たとえ「チップ」や「賞金」を伴ったとしても、本当に賭博行為につながるのでしょうか。

 泥臭くとも、骨太な野球人が日本球界の礎を築いてきた頃を、懐かしく感じてしまう感覚は、やはり時代遅れなのでしょうか…。

【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「メジャー徒然日記」)