ごく一般的に、米国人は大ざっぱで、日本人はきちょうめん、というイメージがあるようですが、野球に限っては少しばかり違う側面があります。きちょうめんというより、米国人の「数字好き」は、メジャーではかなり顕著に表れています。

 古くは1970年代からセイバーメトリクスによる分析が盛んになり、さまざまな測定基準により、各選手の成績が数値化されるようになりました。さらに、2015年からは全30球団が「スタットキャスト」を取り入れ、グラウンド上での多種多様なプレーを、数値で計測するようになり、話題を集めました。「スタットキャスト」とは、レーダーとビデオでプレーを分析し、科学的に数値化するものです。

 たとえば、現時点で今季の最速投球は、ジョー・ケリー(レッドソックス)が4月28日のカブス戦でマークした102・2マイル(約165・5キロ)。また、打球速度は、アーロン・ジャッジ(ヤンキース)が、同日のオリーオルズ戦で本塁打を放った際の119・4マイル(約192・2キロ)というような感じです。このほか、野手がファインプレーの際に走った距離や到達時間、盗塁の際のリード幅やスピードなど、多岐に及んでいます。

 だからといって、野球の「質」まですべて数値やデータで判断できるわけもありません。野球の科学化が進み始めた頃、イチローは「コンピューターを操っている人が、コンピューターに操られている感じがする」と話していました。実際、ほとんどの選手は、そのような細かい数字は気にかけていないのが実情です。ボールのスピン数を気にして投げる投手もいなければ、飛距離を気にして本塁打を狙う選手もいません。ケリーが投げた165キロの速球にしてもリゾにファウルされましたし、その一方で、上原(カブス)のように140キロ前後でも空振りを取り続ける投手もいます。

 球団方針としてデータを重視するチームが増加し、特に守備での「シフト」は大流行どころか、すっかり定着していますが、これにしても「絶対」ではありません。5月20日の「アストロズ-インディアンス戦」では、初回、イ軍のリンドア、ブラッドリーが、ともにシフトの逆を突いて連打しました。その後、ア軍はピンチをしのぎましたが、さすがに次の打席以降は、シフトを敷かなくなりました。ア軍ヒンチ監督は「確かに数字などの情報も大事だが、私はフィールド上での感覚、感情、情熱も大事にしたい」と説明。「スタットキャスト」の細かい数値については、「いろいろなファンが、それぞれに楽しんでくれればいい」と話しています。

 データや数字で対策を練ることも大事なのでしょうが、プレーするのは、あくまで生身の人間です。大事なのは、数値に頼りすぎることのない「使い方」のような気がします。

【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「メジャー徒然日記」)