元社会人パナソニックの吉川峻平投手(23)が、ダイヤモンドバックスとマイナー契約を結びました。日本のプロ球界を経ることなく、メジャー行きを目指すルートを選択したことで、再び「田沢ルール」というフレーズを耳にする機会が増えました。

「田沢ルール」とは、2008年、当時新日本石油ENEOSの田沢純一(現エンゼルス)が、日本のドラフト指名を回避し、直接メジャー挑戦を表明したことを受け、危機感を募らせた日本球界が、選手の流出に歯止めをかける目的で一方的に作ったルールです。

内容は「アマ選手が日本のドラフトを拒否して海外でプレーしたケースについて、その選手が日本に帰国しても高校生は3年、大学・社会人は2年は獲得しない」という申し合わせ事項です。

今回の吉川は、もちろん「田沢ルール」を承知したうえで、メジャー挑戦を決断しました。ところが、田沢の場合、そんな不可解なルールがない時代に米国行きを表明したわけです。にもかかわらず、「後付」で作られたルールの対象にされ、将来的に日本球界でプレーしようとしても2年間は待たされることになっています。当時、プロアマ連絡会で、アマ側は適用を翌年以降、つまり田沢には適用されないよう申し入れましたが、プロ側は応じませんでした。しかも、体操の難易度Hの新技ならともかく、固有名詞が伴う「田沢ルール」などと有り難くない名称まで付けられてしまったわけです。

仮に田沢が日本でのプレーを希望した場合、ルール適用に異議を唱えたとしても、米国の有力代理人は「裁判に持ち込めば絶対に勝てる」と断言しています。実際、「田沢ルール」は野球協約に記載されているわけではなく、あくまでも申し合わせ事項で、法的に拘束力があるものではないはずです。

そもそも、ドラフトを回避した選手だけが対象で、ドラフトから漏れた選手は「お好きにどうぞ」というルール自体、なんとも不可解なものです。

2012年、米国行きを表明していた大谷翔平(当時花巻東)を日本ハムが強行指名したように、本来であれば日米間も自由競争のはずです。本当に魅力があり、熱意を持って口説けば、大谷のように翻意させることも可能なわけです。

選手が現役でいられる時間は、限られています。田沢や吉川の将来のためだけでなく、若い選手の選択肢、可能性を広げるためにも、一刻も早く「田沢ルール」を撤廃して、日米間の往来をシンプルにしてほしいものです。

米国野球経験者が、日本に戻ってプラス面を還元することが、日本球界の発展につながることは、今更、言うまでもないはずです。

【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)