一般的に、スポーツメディアは、チームが勝ったり、選手が活躍した時に、試合内容やコメントを大きく取り上げます。プレーする選手にしても、好結果が出れば、自然と言葉も弾みます。スポーツは勝負事ですから、それもある意味で当然です。

その一方で、勝ったり、活躍した時以上に、敗戦直後に、その選手の本音や信念、極端に言えば、「品格」のようなものが顔をのぞかせることがあります。


10月9日、ア・リーグ地区シリーズでレッドソックスに敗れたヤンキース田中将大投手は、世界一に届かなかった悔しさを感じつつも、来季以降へ向けた気持ちを明かしました。

「自分に期待が持てなくなったら終わる時。プレーヤーとして常に向上したいと思っているし、野球がうまくなりたいと思っているので。ブレないというか、軸というものは、18歳でプロ野球に入った時から持ち続けているもの。ずっと持ち続けているものがあるし、それがないと帰る場所がない。それに対していろんな枝葉を付けて、やっていくんだと思っています」。

敗戦直後に、「帰る場所」を思い起こし、「枝葉」を付ける姿勢を見直す。

できそうで、なかなかできる作業ではありません。


同24日のワールドシリーズ第2戦で、レッドソックスに連敗した直後のドジャース前田健太投手は、逆境におけるメンタル面の重要性を口にしました。

「マイナスにならないことじゃないですかね。ひとつずつ勝っていくしかない。こういう時に1勝でガラッと変わる時はある。とにかく次、ホームに帰った時にひとつ取れれば…。3つ取れれば一気に逆転できますし、プレッシャーをかけることができる。逆に、2連敗から2勝したり、追い越すと相手も焦る。とにかくあきらめずに1勝出来るように頑張りたいと思います」。

劣勢に立たされているにもかかわらず、マイナス思考を排除し、相手の心理状態をも想定し、プラスに転じる材料を探す。

できそうで、なかなかできる思考ではありません。


言うまでもありませんが、彼らの場合、政治家の国会質疑のように、事前に質問内容が分かっているわけでもなければ、関係官僚が答弁を用意してくれているわけでもありません。

残酷なまでに厳しい勝負の世界に身を置く彼らは、勝つことを目標にする一方で、常に「敗者」になり得る現実と背中合わせの生活をしています。苦境や困難な状況に陥った時、どう対処し、乗り越えていくか。過去の経験を踏まえ、再び立ち上がる術を身に付けているからこそ、強がりや虚勢でなく、説得力のある言葉が生まれてくるのでしょう。

日常のさまつな失敗にでさえ、くじけそうになる小市民にとって、苦境でも凜(りん)とした一流アスリートの姿勢には、いくつ齢を重ねても、見習うことばかりです。

三振に仕留め、声を上げるドジャース前田(撮影・菅敏=2018年10月24日)
三振に仕留め、声を上げるドジャース前田(撮影・菅敏=2018年10月24日)