今季もメジャーのトレード期限まで多くのトレードが成立しましたが、その裏には、メジャーならではの、悲喜こもごものストーリーがありました。

レッドソックスのクリスチャン・バスケス捕手は、遠征先のヒューストンで試合前の打撃練習中に、対戦相手だったアストロズへの移籍が決まりました。第一報がSNSで流れ、ダッグアウト前で担当記者に囲まれると、バスケスはしどろもどろで応対せざるを得ず、球団広報が慌ててバスケスをクラブハウスへ連れ戻し、その後、正式発表となりました。

タイガースのマイケル・フルマー投手は、遠征先ミネソタでの試合前に対戦相手のツインズへの移籍が決まり、「タイガース」のロゴ入りバッグを持って、敵だったはずのクラブハウスへ移動しました。

ロイヤルズのアンドリュー・ベニテンディ外野手は、チームのチャーター機で遠征先のニューヨークへ移動。いつも通り、チーム宿舎にチェックインした後、深夜にマシニー監督からヤンキースへの移籍が決定したことを告げられました。翌日、同じ宿舎からヤンキースのクラブハウスへ向かうと、カンザスシティーの数倍とも思われる多数のニューヨークメディアに囲まれました。その日は、いきなり「1番左翼」でスタメン出場。ほんの数時間前まで「同じ屋根の下」で寝ていた仲間と対戦しました。

12年7月23日には、マリナーズのイチロー外野手のヤンキースへの移籍が、電撃的に決定しました。本拠地セーフコフィールド(現Tモバイルパーク)内で行われた記者会見後、イチローは一塁側から三塁側のビジター用クラブハウスへ移動。背番号「31」のビンストライプに身を包み、「8番右翼」でスタメン出場し、キッチリと安打を放ちました。

移籍が頻繁なメジャーで、トレードされた選手は、たとえショックを受けたとしても「これもビジネス」と切り替えます。ただ、その日の対戦相手にトレードとなり、ユニホームを着替えてプレーするのは、どんな心境なのでしょうか。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)