賞を手にしたから、というわけではない。大谷の「愛されキャラ」は米国でも着実に浸透した。

開幕以来、大谷は打席に入るたびに球審、相手捕手に声をかけてあいさつをする。投手としてマウンドに立っても新ボールを要求する際、自然と会釈を繰り返す。日本的な「礼儀」が身に付いている大谷にすれば、おそらく当然のことなのだろう。ただ「二刀流」という過去の常識を覆すような実績とは別に、大谷は国籍、人種を超え、プロとして最も必要とも言える、愛される資質を兼ね備えているような気がする。

8月上旬、エンゼルスのクリーブランド遠征中。試合後、取材を終え、記者席へ戻る際だった。ベンチ裏通路で突然の日本語に立ち止まった。声の主は審判歴40年を超え、球界の大御所として知られるジョー・ウエスト審判員(66)だった。通常、正式な手続きを踏まない限り、審判員への「直撃取材」はご法度とされる。ただ、ウエスト氏は自ら笑顔で話しかけてきた。

「ショーヘイは常にナイスガイだ。だからコンニチハ、と(日本語で)返してるんだ」

米国人のみならず、新人が1年目にある種の「洗礼」、誤解を恐れずに言うと「差別」と感じるような判定に出くわすことは少なくない。ある意味、それは通るべき道だった。ただ、常に礼を尽くす大谷はプレーする楽しさを「スマイル」に置き換え、周囲を味方に付けたのだろう。

厳しい現実と向き合っても、笑顔と礼儀を欠かさない。ウエスト氏の「評価」がファンの声と重なって、今も耳に残っている。【MLB担当 四竈衛】