マリナーズのイチロー外野手(45)が、昨年5月2日以来、296日ぶりとなる復帰初戦を、2点適時打で飾った。

アスレチックスとのオープン戦に7番左翼でスタメン出場。3回2死満塁の第2打席に、右前へ2点打を放った。その後、代走を送られ、2打数1安打2打点だった。マイナー契約で招待選手の立場でもあり、結果を求められるだけに、まずは好調なスタートを切った。

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イチローが、帰ってきた。今キャンプで初めて「背番号51」の水色ユニホームに袖を通すと、軽快な足取りでグラウンドへ飛び出した。296日ぶりの実戦。日米通算28年目を迎え、通算3602試合に出場してきた大ベテランが、見慣れたはずのベンチからの景色に特別な感情を覚えていた。

「すごく緊張しました。最初に(メジャーに)来た時とも違うね。どれとも違う緊張感でしたね」。

例年のオープン戦とは、明らかに違う。過去の野球人生で最長のブランク、渡米後19年目で初めてとなる招待選手の立場。代名詞の「51」は同じでも、イチローの心は、いつになく張り詰めていた。

「緊張するのはいつものことだけど、こういう種類のものは初めて。当然初めての経験だから初めての緊張感。でも、こういう種類のものを味わうとは確かに思っていなかったです」。

2回無死走者なしの第1打席は、右腕ヘンドリクスの時速94マイル(約151キロ)の速球に押され、捕邪飛に倒れた。迎えた3回2死満塁の第2打席。カウント2-2から救援左腕バクターが投げた真ん中高め、91マイル(約147キロ)の速球にバットを折られながらも右前へ運んだ。実戦での安打は昨年4月22日のレンジャーズ戦以来、306日ぶり。大きな拍手を背に受けながらも、イチローは表情ひとつ変えることなく、代走と交代し、ベンチへ向かった。

「あの安打ではちょっと恥ずかしいです。それは奇麗な方がいいんだけど、でも(ファンの)気持ちはうれしいわね」。

低く沈む新打撃フォームでの初安打。イチロー自身は「恥ずかしい」と振り返ったが、高めの速球にバットをかぶせる「技」の一打だった。同打席の2球目には内角高めの速球に、やや振り遅れるかのような空振りを喫した。5球目の安打は、ブランクを感じさせない、持ち前の高い修正能力が生んだものだった。

「この緊張感は今日だけだと思う。毎日緊張すると思うけど、これは今日だけのものだと思う。次はどう試合の感覚を取り戻すか、というステップですね」。

マ軍首脳陣は日本での開幕2連戦(3月20日、21日)でのベンチ入りを明言しているものの、その後の処遇は未定。今オープン戦で結果を求められることに変わりはない。

「(今までと)変わった立場がありますからね。当然だと思います」。

周囲の限界説を覆すためだけではない。常に安打を狙うイチローの姿勢は、何ら変わっていない。【四竈衛】