日本最高の安打製造機が、ついにユニホームを脱ぐ。日米通算4367安打(日本1278、米国3089)のマリナーズ・イチロー外野手(45)が、アスレチックスとの開幕第2戦(東京ドーム)を最後に第一線を退く意向を球団に伝えたことが21日、関係者の話で分かった。50歳まで現役を続ける希望を持っていたが、今季はオープン戦で打率8分、日米通算28年目の公式戦は6打数無安打に終わった。8回、右翼守備に就いた時点で交代。ベンチ前に集合したナインと抱き合い、球場中からイチローコールと万雷の拍手を浴びながらベンチ裏へ引き揚げた。

   ◇   ◇   ◇

いつもと同じく、イチローは左手で右肩に当ててバットを構えた。7回無死二塁で迎えた第3打席は、外角の高めに浮いたチェンジアップで見逃し三振。平然とした表情で三塁ベンチに引き揚げた。

「ごめんなさい。ノーコメントです。でも物語のようでもありますね。最初と最後が同じ試合なんて…」。流ちょうな日本語で感傷的に言ったのはマリナーズのテッド・ハイド氏だ。イチローが00年オフ、オリックスからマリナーズにポスティングシステム(入札制度)で移籍した際に交渉を担当した人物だ。その後もスカウトなどを続け、今回の開幕シリーズも参加している。

「イチロー引退」の可能性が一気に浮上した。一線を退く意向を21日までに球団に伝えた。

「最初と最後」。もちろん今季新加入し、この日がメジャー初先発となった菊池と、これが最後になるかもしれないイチローについて口にした言葉だろう。マリナーズの球団史に残るイチローと、それを目指す菊池。そんな2人がともにプレーした最後の試合になるという意味をテッド氏は伝えたかったのか。

ついに来るべきときが来たのか。昨年5月2日、シアトルでのアスレチックス戦を最後に「会長付特別補佐」というフロントに就任。しかし現役続行にはこだわり、トレーニングを続けた。完全復帰を目指し、マリナーズとマイナー契約を結んだ。そしてメジャー19年目の春季キャンプに臨んだ。

しかし結果は出なかった。オープン戦で18打席連続無安打。日本に来てから巨人との2試合を合わせれば24打席連続無安打。そして前日のシーズン開幕戦は1四球を選んだものの1の0。

そして第2戦のこの日も三邪飛、二ゴロ、三振と3打席ヒットが出なかった。あれほど快音を奏で続けたバットは沈黙を続けた。

「当たり前のように結果を出して当たり前のようにここにいる状態をつくりたかった。実際はそうならず、大変、苦しんだ。キャンプの結果を踏まえ、ここにいることはあり得ないこと。日本人でいることで、すでに勝ち組なんだなと」

イチロー自身、開幕戦を前にそう言った。愛知県の小学生時代からプロ野球選手になることを夢に見て、自分の実力でここまでの存在になった男。そんなイチローだけに現在の自分を見つめ直し、ケジメをつけるタイミングを感じたのかもしれない。