エンゼルス大谷翔平投手(24)のサイクル安打は、偶然と必然が交差した奇跡の産物でもあった。今試合、屋外の雷雨が原因で起きた停電で36分間、ゲームが中断。復旧後の5回に、長打力と走力を兼ね備えた打者としての能力を発揮しての三塁打を放ち、快挙につなげた。打率も上がり、絶好調の6月。もし、停電でそのまま試合不成立となっていたら…。さまざまなタイミングが重なっての偉業となった。

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5回の第3打席。右翼線へライナーを放った大谷は、大きなストライドで快足を飛ばし、一気に三塁を陥れた。「やっぱり三塁打が一番、難しいかなと。長打をしっかり三塁打にできる走力が重要かなと思う」。最難関をクリアし、サイクル安打の可能性は一気に高まった。

布石はあった。第2打席。左中間への二塁打を放った。6月に入って5本塁打も「ホームランを量産するタイプではない。二塁打を基準にしていければいい」というのが大谷の打撃スタイル。その二塁打は今試合前までで、今季わずか1本。それも中堅方向へのゴロを右翼手が捕球する間に二塁を陥れたものだった。しかし、この日は左中間を真っ二つに破る理想に近い二塁打だった。「結果も内容も良かったのが、自分的にはすごく納得できた」。武器の長打力に加え、足に自信があればこそ、三塁を狙える。“二塁打の延長”で三塁打は生まれ、サイクル安打への道筋ができた。

“運”も味方した。4回裏1死、レイズの攻撃中に停電が発生。試合不成立になる可能性もよぎったが、大谷は「いつ復旧するか分からなかったので、準備はしていました」。室内練習場で試合再開を祈り、36分後、無事に再開した。「再試合というか、なしだけは嫌だな嫌だなと思ってましたけど、結果的にこうやって勝つことができて良かった」。そして直後の5回、三塁打を決めた。

5月7日の復帰以降、打率2割4分前後で状態が上がらない時期もあった。それでも「毎日毎日、この方が良いかなと思って取り組むところはある。それが、良かったり悪かったりの繰り返し。1打席、1打席、変えるときもある」と微調整を重ねてきた。この日の4打数4安打で打率は2割8分1厘まで上昇。サイクル安打達成にも「運も必要だと思いますし。そういうツキも今日はあった。状態をキープして、もっともっとあげていきたい」。偉業の陰には、長打力&走力のポテンシャルと停電が復旧した運が交わる奇跡があった。【斎藤庸裕】