同じ本を何度読みますか? 来季、投打二刀流で完全復活を目指すエンゼルス大谷翔平投手(25)のインタビュー後編は、冷静に物事を見定める思考に迫った。読書の仕方から見えた独特の考え方。1つの見方にとらわれず、多角的、多面的な視点で生きる姿は野球にも通ずる。チーム再建を託され、ともに世界一に挑むマドン新監督の第一印象と合わせ、来季への決意も語った。【取材、構成=斎藤庸裕】

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大谷の読書に対する考え方は独特だ。同じ本を何度も読むという。

「1回読んだだけでは、その本から得られるものは30~40(%)くらいだと思う。それを2回、3回、読むことによって、もっと違う捉え方ができるっていうのはあります」

最近では、メジャー挑戦前に読破した日本ハム時代のトレーナー、中垣征一郎氏(現オリックス球団本部パフォーマンス・ディレクター)の著書「野球における体力トレーニングの基礎理論」を部屋の整理中に見つけ、再び読み直した。

「全然、捉え方が違いましたね。(米国で)2年、自分でトレーニングもしましたし、エンゼルスの方にも教えてもらったりして。自分が疑問に思ったこととか、その本を読んでいることによって、こうなのかな、こういうのはどうなんだろうとか。これはトレーニングで特殊な話ですけど、そういうのが多い」

何度も読み返すことで多角的な視点が生まれ、理解により深みが出る。他にどんな本を読んでいるのか。

「自己啓発系も多いですね。小説はあんまり読まないですけど。得意じゃないというか、面白いと思って読まない。ちょっと苦痛になっちゃうので」

本のタイトルはなかなか口にしない。その理由も何とも大谷らしかった。

「あんまり言わないようにしてます。本棚を見られるのとか嫌じゃないですか(笑い)。心の中をのぞかれているようで。自分でこれ読んでますっていうのも違いますし、誰かのために読んでるわけでもないので」

それでも、多くのアスリートが手にする宮本武蔵の「五輪書」を引き合いに出すと、読んだことがあると明かした上で続けた。

「それこそ五輪書を1回読んだだけで、100のうち50以上、理解できる人はあんまりいないと思う」

同書には武士道を説いた名言も多くある。伝説の二刀流・宮本武蔵の言葉は、現代の二刀流、大谷の心の軸ともなっているのか。

「それが座右の銘です、とかはないですね。そういう言葉があれば、また逆の言葉もあるので。そっちだけをフォーカスして捉えていくと、別の捉え方ができなくなったり。栄養学でも『こういうダイエットがいいですよ』というのがあれば、『そのダイエットはダメですよ』という本もある。どっちも読む必要があって、それを理解した上で、自分がどっちに行くかが大事なので。どっちかだけを読んで、これすごい良いなと思って、それだけにいくのはちょっと危険かなと思いますね。なので、いろんな本をいっぱい読んだ方が、自分で決めるのもうまくなるし、大事かなと」

表があれば裏もある。物事を一方だけから見ず、別の角度からも目を向ける。この見方は、大谷が切り開いたとも言える二刀流への考え方にも表れる。日本だけでなく、海を渡ってもレールが敷かれていない未知の道を進む中で怖さや不安を感じたことはないのか。

「特にそれは感じたことはないですね。ファイターズ(日本ハム)でやらせてくれる環境があって、エンゼルスもそういう環境があって来ましたし、来年も二刀流の枠を作ってくれたりするので。自分が思っていたよりも、周りが整っていくっていうこともある。意識して別に違うことをやりたいっていうことではなくて、流れでこうなってきた部分もある。それは、(自分の)強い気持ちだけでこうなってきたわけではないので。周りの人が協力してくれて、流れに乗って自分もここまで来たっていうのもあるし、できる限りその成り行きに乗りたいなと」

懐疑的な目を向けられていた二刀流への見方は、大谷の存在で確実に変化した。しかし、それは自身の力だけでなく、周囲のサポートもあってこそできた「流れ」のおかげでもあると俯瞰(ふかん)する。

だから、二刀流という高いレベルでのチャレンジに強い決意がある。

「やる以上はもちろんいい結果を残したいし、そういう位置を確立したいなというのはある。そういう意味では、ツーウエー(二刀流)も登録に入るというのは特別な意味があると思う。チームとしてもメリットはあると思いますし、大事なことかな思うので、それがもちろん、優勝につながってくれれば、もちろんうれしいかなと思います」

来季からはメジャーで新ポジションが加わる。「Two-Way Player」。二刀流選手の登録枠だ。そして、チームの指揮も新たにマドン監督が執る。監督就任スピーチでは、最前列でひと言ひと言に耳を傾け、その印象を“雰囲気”という言葉で表した。

「雰囲気ありましたね。自信に満ちている感じもしましたし、経験と実績からあふれている感じがしました。ユーモアもあるし、なんかいい人そうだなと。面白そうな野球をしそうだなという雰囲気はあります」

物事を多面的に捉える青年は、知識と経験が豊富な名将とどんな関係を築き、考え方を学び、融合していくのか。これまでとはまた違った大谷翔平が、引き出されるかもしれない。

◆「Two-Way Player」枠 来季から投手、野手のポジションに加え、二刀流選手の項目が加わる。メジャーリーグ機構(MLB)とMLB選手会で合意した新ルールとして、今年3月14日に発表された。条件は、メジャーで投手として20イニング以上を投げ、また20試合に野手(DHを含む)として先発出場する(それぞれの試合で少なくとも3打席以上立つ)こと。これをクリアすれば、二刀流選手として登録されることとなる。