2017年のワールドシリーズで、電子機器などを使い、組織的なサイン盗みを行ったとされていたアストロズに対し、MLBが厳しい罰則を科すことが13日(日本時間14日)、明らかになった。

   ◇   ◇   ◇

今回のアストロズに対する処分が、厳罰か甘いか、を判断するのは簡単ではない。ただ、MLB機構が、徹底的な調査を進めたうえで、ア軍の組織的なサイン盗みを摘発した意味は少なくない。というのも、サインを伝達された選手を罰することなく、勝つために手段を選ばなかったア軍首脳陣の責任を問う姿勢は、球界全体への“イエローカード”に近い。

かつて“ステロイド禍”がまん延した2000年前後、某球団が所属選手に対し、組織的に禁止薬物を供給していたことは広く知られていた。ただ、筋肉増強剤などを使用するか否かは、最終的には選手個人の裁量。その後、摘発が進んだ際、機構側は調査書「ミッチェル・リポート」で個人名を明かした一方で、特定の球団を処罰することはなかった。そこに、MLB全体の組織を守ろうとする、いわゆる“忖度(そんたく)”のような空気があったことは否めない。

選手個々の成績が飛躍的に伸びれば、チームの成績も好転する。ただ、今回、機構側は選手個人の“サイン盗み利用”を糾弾せず、組織としての悪意を俎上(そじょう)に挙げた。というのも、現実的に各選手はチームの方針に背くことは許されず、伝えられたサインを受け取るしかない。球種が分かっていれば、結果を残すために打ちにいく。つまり、スポーツマンシップに反する気持ちを抑えながらもバットを振る。その際の心の葛藤はいかばかりか。極論すれば、反論すら許されない選手が共犯になった可能性もある。

ア軍GM、監督への処罰は、不可思議なルール改正をはじめ迷走気味だった現機構としては、特筆すべき判断と言っていい。今回の裁定は、最新のテクノロジーに偏重し過ぎる現在の米球界が自戒を込めた、ひとつの警告と受け止めるべきではないだろうか。【MLB担当=四竈衛】