エンゼルス大谷翔平投手(26)が8個目の盗塁を決めた6月6日、3年前の出来事が頭をよぎった。18年の同日、大谷はロイヤルズ戦に登板した。その後、右肘の靱帯(じんたい)損傷が発覚。当時のエプラーGMは「アドレナリンが収まって、肘の張りを訴えた」と説明した。大谷は5回のマウンドに一度上がり投球練習を行っていたが、首脳陣にストップをかけられて降板。腕の違和感よりも、大観衆の中で自然とあふれたアドレナリンが勝っていた。

右肘や左膝の手術を経て、今季は順調に二刀流を継続する。18年と同様、投打の驚異的なプレーで注目度も高まっている。そんな中、本拠地での試合は6月17日のタイガース戦から100%の観客動員が可能となる。かつて大谷は肘への不安について「ファンもいて、アドレナリンが出てマウンドに行けば気にならない」と言った。ファンの力を強調する一方で、この意欲が故障を招く可能性もある。自分を客観視するリスクマネジメントが必要だ。

2年を経て、自己管理にも変化はある。投球も力任せではない。直球が走らなければカットボールを有効に使い、ここ数試合では比較的、感情を抑えながら淡々と打者を抑えている。疲労や肘への負担を計測するモータス社製の黒バンドも練習中は常に装着。技術の向上だけでなく、故障予防にも工夫がみられる。

160キロの直球を連発し、打者でも打率3割前後をキープしていた4月に比べ、数字は落ちてきている。もちろん投打の結果も大事だが、同時にフルシーズン戦い抜くことが、二刀流が可能と再び証明することにつながる。開幕直後に言った。「1シーズン通して今年1年できるように、頑張りたい」。3年前につまずいた6月をまず乗り越えれば、初のオールスター出場、そしてシーズン完走も見えてくる。【斎藤庸裕】