オリオールズ藤浪晋太郎投手(29)がメジャー1年目からシャンパンファイトを経験した。7月にアスレチックスから電撃トレードで加入し、強力中継ぎ陣の一角としてフル回転。9月は7試合連続無失点も記録し、強豪ぞろいのア・リーグ東地区でのチーム9年ぶりVに貢献した。ア軍で先発ローテを任された開幕直後の制球難を大幅に改善させ、最終的にはレギュラーシーズン64試合に登板。7日(日本時間8日)からの地区シリーズ突入を前に、劇的変化の要因について本人に直撃した。【取材・構成=佐井陽介】

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FUJIが驚くべき逆襲劇をいったん完成させた。9月序盤は中継ぎで7戦連続無失点も記録し、オリオールズ9年ぶり地区優勝の一翼を担った。アスレチックス在籍時に先発で14点台だった防御率を7・18まで回復させ、レギュラーシーズンをフィニッシュ。劇的変化の要因として注目されているポイントが「直球の1分間あたりの回転数が大幅に向上した」という事実だ。

「回転数は上がっているみたいです。1900ぐらいだったのが、2200から2300ぐらい出ている時もあったそうです。これという確定要素はないんですけど、1つはシンプルにボールに指がかかっている、ということかもしれません。実は今季中盤、指をかける場所を少し変えました。『深く握る』じゃないけど、これまで指先を縫い目にかけていたところを、第一関節が縫い目にくるようにしたんです」

“深握り”への修正。それはまだア軍でもがいていた初夏のひらめきから始まった。投球練習中に解析した数値も良く、今も継続しているのだという。

「そういえば昔こんな握り方で投げていたな、と。大阪桐蔭にいた頃とか、本当にまだ若い頃の握り方です。それをちょっと試してみたら、単純にフィーリングが良かったんです。オークランド(アスレチックス)の最後の頃にはもう変えていたので、ボルティモア(オリオールズ)に来てから劇的に変わった、ということではないんです」

月間防御率の変遷を見れば、4、5月の2桁台から6月は3・97、7月は3・14に向上している。オ軍への電撃トレードが決まったのは現地時間の7月19日(日本時間20日)。安定感アップは移籍後の産物ではなく、数カ月間にわたる試行錯誤の成果だった。8月6日(同7日)には日本人メジャー歴代最速の102・6マイル(約165・1キロ)も計測し、手応えがある。

「今は無理をしなくても自然に100マイル(約161キロ)が出ています。阪神で中継ぎをしていた頃、アドレナリンマックスで腕を振って160キロを出していた時とは違いますね。ボルティアに移籍した直後は置きにいったボールでも100マイルを超えていたので」

阪神在籍時の20年は中継ぎで自身最速162キロを計測しながら「このまま投げ続けたらつぶれるかも」と不安を覚えていた。当時とは違う感覚が頼もしい。

メジャー流の考え方も積極的に取り入れている。その1つが「ピッチトンネル」だ。複数の球種を似たような軌道から変化させ、打者の見極めを難しくする。そんな考え方も右腕のステップアップを支えている。

「ピッチトンネルは特にコントロールが良くない投手によく指導するそうです。持ち球が真っすぐ、カット、カーブであれば、真っすぐの軌道に合わせて右打者の内角高めに投げれば全部ストライクゾーンに収まるという計算の仕方。持ち球によってトンネルの場所が変わって、真っすぐとスプリットが主体の自分は真ん中高めになります。そこを通せば打者が見分けにくいでしょ、と。実際、高めの“トンネル”にしっかり通せるようになって、空振りやファウルを取れる確率は高くなったと思います」

縫い目がボールの変化に影響を与える現象「シーム・シフト・ウェイク」も研究し、スイーパーの曲がり幅を増やした。さらに米国ならではのプラス思考も大器を助けているようだ。

「オークランドの時からコーチも選手も『シンプルに』と言ってくれていた。『いいボールを持っているのだから、ストライクを投げることに集中すればいいじゃないか。ただでさえ野球は難しいモノなのに、なぜもっと難しく考えるんだ』と。全然ストライクが入らなかった時期もずっとそう評価して前を向かせてくれた。それはボルティモアに来てからも同じ。たとえ打たれた日でも『ストライクゾーンにアタックしているんだからいいよ』と割り切ってくれる。良くなかった時期の考え方は今も自分のベースになっています」

オ軍は7日(同8日)から地区シリーズに突入する。果たしてFUJIに登板機会は訪れるのだろうか。秋を迎えた藤浪はどこまでも自然体だ。

「もちろんプレーオフで投げてみたい。空気を感じたい。でも今は日々やるべきことをやるのが1番だと考えています。先を考えると、どうしてもいろいろと計算してしまう。そういう意識をなくして、できるだけフラットに過ごすことが日々の目標です。ただでさえ刺激的な毎日。自分にプレッシャーをかけ過ぎたり、余計なことを考え過ぎないでマウンドに上がれるようにしたい」

世界一へ、地に足をつけて前進する。

◆数字で見た藤浪のメジャー1年目 アスレチックス、オリオールズと移りながら、計79イニングで83Kを記録した。奪三振率は9・46。イニング数を上回る三振を奪ってみせた。圧巻だったのは7月だ。アスレチックスでは7試合で8イニング10K、移籍したオリオールズ5試合で6イニング1/3 9K、合計14イニング1/3を投げ19Kで奪三振率11・93。環境の変化をものともしない投球で、安定感を見せつけた。