世界中が注目し、膨大な量の情報が駆け巡った「大谷争奪戦」は9日(日本時間10日)、ドジャース移籍で決着した。所属先の代理人事務所CAAの発表で契約額は10年7億ドル(約1015億円)で、世界のスポーツ界全体で史上最大の契約額となった。今季はシーズン前からオフの動向は話題を集めてきた。空前の争奪戦の舞台裏を振り返る。

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契約最終年を迎えた今年の2月16日、ポカポカ陽気のアリゾナ州テンピ。春季キャンプで大谷が初の会見に応じた際、米メディアの質問はシーズンへの抱負以上に、FAとなるオフの動向に集中した。それでも、大谷は表情を変えることなく、淡々と心境を明かした。「最終年というのは理解していますし、オープンな気持ちがあるというか、どうなるか今後分からないので、今の段階ではエンゼルスに所属してますし、このチームで優勝したいという気持ちが一番かなと思います」。移籍か、残留か。開幕前からオフの話題が注目されるほど、大谷の周囲はざわつき始めていた。

22年に明らかになった球団売却計画は、開幕前の1月、オーナーのアート・モレノ氏が23年以降も所有するとの声明を発表し、一応、沈静化した。だが、球団側の長期的ビジョンは明確には見えてこなかった。大谷の去就が球団の資産価値にも影響を与えるとの見方もあり、エ軍の先行きが不透明である状況は変わっていなかった。

実際、7月末のトレード期限前には、再び大谷の移籍情報が飛び交った。ヤンキース、ドジャースなどポストシーズン(PS)を争う強豪球団がトレードでの獲得を画策。水面下では、前年以上に実現性が高まっていた。最終的には、ペリー・ミナシアンGMがトレード話を否定。「買い手」に回り、投打にわたって積極的に補強するなど、公式戦最後まで残留することが確定した。だが、皮肉なことに、エ軍は8月序盤に大失速。瞬く間にPS争いから大きく後退し、トレードで獲得した選手を短期間で続々と放出した。

その間、大谷は体の各部に異常を訴えた末、投手としては8月23日、打者としても9月3日を最後に戦列を離れ、最終的に右肘手術を決断。公式戦終盤は、公の場で日米報道陣の取材に応じることなく、静かにシーズンを終えた。

エンゼルスは14年を最後に、またしてもPSを逃した。シーズン終了後には、ネビン監督を解任。新監督には、大ベテランのワシントン監督が就任したものの、7年間で5人の監督を入れ替える球団に未来はあるのか。補強だけでなく、スカウティング、育成システムなど、多くの課題が指摘されるエ軍が、大谷が望む「ヒリヒリする9月」を迎えられるのか。その時点で、大谷残留を予想する声は、ほとんど聞こえてこなかった。【MLB取材班】

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