松井秀喜外野手(38)が現役引退した。会見の中で「一番の思い出」として挙げたのが、巨人時代の長嶋監督との特訓だった。

 「長嶋監督と毎日、2人で素振りした時間ですかね。一番印象に残っています」。一方、長嶋監督もこの日「個人的には、2人きりで毎日続けた素振りの音が耳に残っている」とコメントした。

 長嶋監督には「1000日計画」と称して、3年間で松井を巨人の4番打者に育て上げる使命があった。そのためほぼ毎日、試合が終わると自宅や遠征先の宿舎の自室に松井を呼び、素振りをさせていた。

 プロ4年目の96年の開幕前、松井から長嶋監督との素振りの話を聞いた。素振りは暗闇の中で行われるという。

 「長嶋監督は照明を消して部屋を暗くして待っているんです。その暗闇の中で素振りをします。監督さんはスイングを見るんじゃなくて、音を聞いているんです」。

 松井がバットで空気を切り裂く「ブンッ!」という音を、目を閉じてじっと聞いているのだという。

 「本数は決まっていません。いい音が出るまでバットを振り続けるんです。いい音が出たら、終わりです」。

 長嶋監督らしい特訓だと思った。

 この年、松井は初めて開幕4番に座った。本塁打王こそ逃したが38本塁打を放ち「メークドラマ」と呼ばれた大逆転優勝に貢献。セ・リーグのMVPに輝いた。(メディア戦略本部・福田豊)