これは本気だ!?

 マリナーズ・イチロー外野手(35)が7日、神戸市のスカイマークスタジアムでブルペン投球を行った。球威ある真っすぐにフォークも交えて56球。セットポジションやクイック投法も披露し、自主トレパートナーを務めた元巨人柳沢裕一捕手(37)、元オリックス藤本博史捕手(32)も投手さながらのド迫力にびっくりだ。3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)のタイブレーク方式採用で野手登板の可能性も出てきたが、イチローも万が一の有事に備え真剣モード。ここまできたら「投手イチロー」も見てみたい?

 キャッチボールを終えたイチローが向かったのは、何と一塁側ブルペンだった。

 イチロー

 今日はこれが目的で来ましたからね。遊びじゃないぜ。冷やかしじゃないぜ。

 ニヤリと笑った立ち投げの初球から、威力ある直球が激しくミットをたたいた。6球で捕手を座らせると、ダイナミックに振りかぶったフォームは一層迫力を増していった。

 イチロー

 景色いいよね。推定速度は?

 藤本捕手

 力、あります!

 147キロは出てます。

 イチロー

 そんなもんか?

 もう少し欲しいな。足を上げた方が勢い出るか。

 フォームは1球1球、試行錯誤。21球目は初の変化球、フォークが右打者の内角ひざ元に決まった。

 藤本捕手

 エグイっ!

 

 イチロー

 握りは最初からこれやな。(グラブが)開いてまう。

 フォークの際はクセがバレると感じ、ボールをはさんだままグラブに収納するテクニックも披露。さらにセットポジションでも投球し、一塁けん制動作に加えてクイックまで試した。

 イチロー

 1秒3以内ならいいんだけどね。

 藤本捕手

 今の、速い速い。十分切ってます。

 最後は柳沢氏を打席に立たせ全力投球。内角高めでのけ反らせ、内角低め、外角低めにもズバズバ決めた。フォーク3球を含むこん身の56球は、往年の中日名ストッパーにたとえられた。

 柳沢氏

 セットでも145キロは出てる。対戦した中では宣銅烈のような感じ。手元でも球威が落ちない。内の後は外が遠く感じる。

 投球練習はオリックス時代の96年6月24日、球宴登板に備えて盛岡遠征中に行って以来、実に13年ぶり。この日、本職の打撃練習を取りやめてまで投げた背景には、WBCでタイブレーク制が導入され、原監督が野手緊急登板の可能性を示したことにあった。

 イチロー

 それが目的というのはヤボったいんじゃない。純粋に(投げたかったので)。

 各球団のエース級がそろう本職の代表投手陣に配慮を示す。だが「ナイスボール」と水を向けられると「あったりメエじゃないですか」と胸を張った。フォークについては「中学時代からのアウトピッチ(決め球)」と自画自賛。そして報道陣から「抑えられそうだ」と感想を口にされると、語気を強めた。

 イチロー

 何言ってるんですか。抑えられそうじゃあない。抑えますけどね。

 非常事態に備えての「イチ流」調整。「ウエートやランニングと一緒で、数を重ねないといけない。でももう1度はない。次やるなら本当に隠れてやりますよ」と言い残して引き揚げた。【松井清員】