【ニューヨーク5日(日本時間6日)=佐藤直子通信員】ニューヨーク到着3時間後の悲劇だった。ポスティングシステム(入札制度)で大リーグ移籍を目指した西武の中島裕之内野手(29)と、独占交渉権を獲得したヤンキースとの交渉が決裂した。交渉期限まで、約28時間を残しての発表だった。ヤ軍側が控え選手と位置付けるなど低い条件が変わらなかった。中島は帰国後、西武との契約更改交渉を行う予定。昨年の岩隈久志投手(30)に続いて合意に至らず、入札制度の見直しが迫られそうだ。

 中島の熱意は届かぬまま、交渉決裂に至った。代理人に任せていた交渉は、早くから難航。30日間あった交渉期限が2日前に迫り、中島は思いを直接伝えようと渡米を決断。だがニューヨークに到着して、わずか3時間後にヤ軍から破談が発表された。「契約が不成立になり、とても残念ですが、今回ポスティングを認めてくれた西武と入札してくれたヤンキースに感謝しています」。西武球団を通じて発表された中島のコメントに、無念さがにじんでいた。

 独占交渉期限まで、約28時間を残しての打ち切り発表だった。ニューヨーク・タイムズ電子版は、ヤ軍が中島の渡米を知らなかったという記事を掲載。交渉は期限ぎりぎりまで粘って好条件を引き出すケースが多く、同紙は「情報を知っていれば状況は違ったかもしれない。残り1日でも合意の可能性はあった」と残念がった。

 破談の原因は条件面の開きだった。地元紙ニューズデー電子版は「3年契約の希望に対し、提示は1年」と明かした。ジーターらスター選手がそろう内野陣で、求められた役割はベンチ要員。当然、年俸も控え扱いとして抑えられ、提示が100万ドル(約7500万円)に満たないと伝える米メディアもあった。中島の昨季年俸は推定2億8000万円で、3分の1以下となる。

 また、ヤ軍は控えも好守のヌネスらが充実し、すでにメジャー枠40人が埋まっている。中島とメジャー契約を結ぶためには、枠をあける必要があった。こうした状況からも、ヤ軍に是が非でも中島を獲得しようという意欲はなかったものと考えられる。ヤ軍のキャッシュマンGMは「合意に至らず残念だ。来るべきシーズンの健闘を祈る」とコメントした。

 中島は、あくまでヤ軍で厳しい競争をする覚悟だった。ヤ軍が独占交渉権を得た後も「条件とか関係ない。少しでも早くメジャーにいきたい」と語るなど、メジャー挑戦への意欲は高まっていた。ただ、日本に復帰すれば、順当なら今季中に海外移籍が可能なフリーエージェント(FA)権を取得できる。代理人らが、1年後よりよい条件での契約を目指すべきと勧めたとみられる。

 入札制度で入団交渉が決裂したのは、昨年オフの岩隈とアスレチックスの交渉に続いて2年連続となる。また、ヤクルト青木がブルワーズの“入団テスト”を受ける形になったように、大リーグ球団にとって入札制度は補強の選択肢の1つとしか受け止められていない。中島の交渉決裂で、問題点があらためて浮き彫りとなり、制度自体の見直しが迫られそうだ。

 ◆ポスティングシステム(入札制度)

 96年オフに起こったロッテ伊良部秀輝投手の移籍トラブルを受けて98年に創設された。フリーエージェント権を持たなくても日本所属球団の承認を得れば米球界入りが認められる唯一の制度として「日米間選手契約に関する協定」に規定がある。日本球団は11月1日から翌年3月1日までに入札を申請することができ、獲得を希望する米球団は金銭のみをもって入札する。最高額を日本球団が受諾すればその落札球団が30日間の独占交渉権を獲得。契約が成立すれば落札額が日本球団に支払われるが、契約できなければ交渉権は消滅し、米球団は落札額を支払う義務を負わない。