アスレチックスからFAとなった松井秀喜外野手(37)が11日、都内グラウンドで12年の初打ちを敢行した。自主トレで今年初めてバットを握り、トス打撃で69スイングを打ち込んだ。帰省を終え東京に戻った翌日の7日から無休でトレーニングを行っているが、その5日目にして早くも打撃を解禁。所属先は依然として未定のままだが、どこに行ってもキャンプからアピールできる態勢を着々と整えつつある。

 厳寒のグラウンドで打球音だけが響いていた。40分のランニングと前日から再開したキャッチボールで体を十分にほぐすと、松井はおもむろにバットを持って打撃ケージに入った。右打席で10球程度を軽くさばいてから、左に持ち替えて69球を振り込む。観測上の気温は6度だったが、薄暗く時折雨も降る屋外の体感温度はさらに低かった。打ち終えた松井が「寒い。内容も寒かったね」とジョークを飛ばすほどだった。

 調整ペースは気温の上昇を待たずにぐんぐん上がってきた。例年「不定休」だった都内での自主トレは、これで開始から5日連続の「無休」状態。ランニングの強度も徐々に上がり、前日のキャッチボールに続いてこの日はついにバットを握った。昨年の都内での打ち始めは2月5日。一昨年はコンディションが整わなかったため国内ではバットを握らず、初打ちは渡米後の2月20日(日本時間同21日)だった。

 例年よりも早いステップアップには、コンディションの良さとともに松井の意欲も表れている。プロ20年目を迎える今季は初めて年が明けても所属先が未定。日本復帰の考えはなく、メジャー10年目のシーズンを迎えることに集中しているが、どこのチームに行くとしても厳しい立場が予想される。レギュラーを与えられる可能性は高くなく、キャンプなどで開幕前にアピールする必要性が十分に考えられる。連日の調整からは、そうした自身の状況を十分に理解する松井の覚悟を見て取ることもできる。

 寒さが苦手な松井としては異例ともいえる厳寒の中での初打ち。「たまたま練習パートナーがいたから投げてもらっただけ。振れるっていっても、全力で振ってませんよ」と「慣らし運転」を強調したが、いつでも打てる状況を準備できていることが何より順調ぶりを示している。恩師の長嶋茂雄巨人終身名誉監督はかつて「寒い中で走り込んで体はつくるもの」と巨人時代の松井に自身の考えを訴えかけたこともある。「やれる時にやれることをやるだけ。それで少しずつ、質の高いことと、あとは量もできていったらいいかな」という松井は、冬の都内で着々と復活への階段を上がっている。【大塚仁】