<ブルージェイズ3-7ヤンキース>◇4日(日本時間5日)◇ロジャーズセンター

 ヤンキース田中将大投手(25)がメジャー初登板を勝利で飾った。1回先頭のカブレラに右越え本塁打を浴びたものの、尻上がりに調子を上げ、7回を97球で3失点、無四球で8三振を奪った。決して調子が良くない中でも粘り強く試合をつくり上げる修正能力の高さを発揮。トレードマークの「雄たけび」を封印して日米通算100勝を達成した。レギュラーシーズンでは12年8月26日から負けておらず、日米合わせると「29連勝」と不敗神話を継続した。

 あのジーターが、サバシアが、田中の快投を喜んだ。7回、最後の打者ディアスを、動く速球で見逃し三振に仕留めた。日本から来たニュースターを、ヤンキースの面々が笑顔で出迎えた。田中は初々しさを出すわけでもなく、メジャーリーガーらしく、堂々と称賛を受け止めた。楽天時代にトレードマークだった「雄たけび」は封印した。勝利会見では「うれしいのはもちろんですけど、ホッとしましたね」と、しみじみとした口調で言った。

 数々の大舞台を踏んできた25歳右腕は、1回先頭打者カブレラに、最大の武器であるスプリットを右中間席へ運ばれた。2回は1死走者なしから連打を許すと味方の失策も重なり満塁に。ディアスに初球を左前打され2点を失った。いい球がある一方で制球が乱れる場面も目立った。

 だが、3回以降は徐々に持ち直した。丁寧にコーナーを突く投球が光り、5回2死では主砲バティスタをスプリットで空振り三振。100球に迫った7回でもスプリットとツーシームはますます躍動し、2三振を奪った。それでも最後までガッツポーズはなかった。

 7年総額1億5500万ドル(約162億7500万円)。破格の契約は、重圧と責任を伴う。待遇や期待も大きければ、一方で嫉妬やねたみも大きいもの。「すべて分かって、ここに来てます」。覚悟があると言い切る。新しい環境に、精神的に適応することが今キャンプの大きな幹だった。

 タンパのロッカールームでのことだ。米国人記者が取材にきた。数問の質問の後「最後の質問だが」と断って「先日、球団の給料日だったが、ヤンキースでの最初の給料で買ったものは何?」と聞いた。田中は思い出そうと「う~ん」とうなっていると、同記者は「(渡米時に使った)チャーター機の料金だろ!?」と言って、笑って去っていった。「それが言いたい、だけやん…」。真面目に返答するつもりだっただけに、余計に残念そうだった。

 ただ、周囲が「活躍して当然」という大きな期待を持っているのも理解している。それだけに、その後も連日のように日米メディアの取材に応じ、デビュー戦でも1つの三振や1つの勝利に酔いしれることはできない。それが、ヤンキースの一員になったという自覚の表れだったのだ。

 あこがれや目標にする選手は「いない」と話す田中だが、1月の渡米前に「野球だけではなく人柄も含めて、松井秀喜さんみたいな選手になりたい」と話した。松井氏のように、ニューヨーカーに愛される男になる-。そんな、険しくも夢のある旅に飛び込んだ。日米通算100勝目は、壮大な旅の1歩目だった。