突然の新球解禁だ。広島前田健太投手(26)が25日、沖縄キャンプの紅白戦に登板。初登板は2回1安打1失点(自責0)で終わらせた。他球団スコアラーを驚かせたのは、2日前に覚えたばかりの魔球だ。縦に落ちるスライダーを解禁し、空振り三振に打ち取る場面もあった。開幕投手に内定しているマエケンが進化した。

 マエケンの新球は打者の手元で鋭く縦に落ちた。新外国人グスマンは首をかしげながらベンチに引き返す。1回1死二塁。カウント2-2からの6球目だった。外角低めに投じられたボールは、やや外に滑りながら急激に落ちた。空振り三振。セ・リーグ全球団のスコアラーが集結したネット裏はざわついた。

 ヤクルト衣川篤史スコアラー これまでのスライダーとは軌道が違う。打者からは真っすぐに見える。

 阪神古里泰隆スコアラー いつも横の変化のイメージだったが、違った。すごくいいボールだった。

 その後も前田は次々に新球を投げ込んでいく。隠す必要はない。31球中、実に11球も投じた。球速は120キロ前半から中盤。グスマンの空振りはもちろん、ミスショットを誘ったり見逃しでカウントを整えるボールとしても使った。あれはなんなんだ…。ざわつきをよそに、前田は涼しげに正体を明かした。

 「魔球です(笑い)。違うスライダー。縦スラのような感じです。いつも横なので、今までにないイメージの球を投げたかった」

 この魔球、2日前のブルペンで突然思いついたというから驚きだ。「昨季カットボールを失敗して縦に落ちることがあった。それを意図的に投げられればと思った」。詳細は企業秘密ながら、握りを変えて投げるとうまくいった。フォーク系の変化球は合わず、縦の変化はカーブとチェンジアップだけ。変化を求めるなかで突然思いついたボールだった。さっそく打者の反応を見た、というわけだ。

 フォームが崩れる、などのやぼな考えはない。「(習得に)勇気はいらないです。ダメだったらやめるだけ」。確かな手応えに、いたずらな笑みを浮かべたまま、前田は会見場を後にした。【池本泰尚】