悔しい~。ソフトバンク工藤公康監督(51)は初陣を飾れなかった。4番に起用した内川が2併殺、松田の失策が失点につながるなどツキもなかった。ただ、日本一チームを引き継いだ新人監督は「簡単にバントはさせない」と2回無死一塁で鶴岡に強攻を指示するなど独自のカラーを出した。優勝請負人の戦いはまだ始まったばかりだ。

 初陣は黒星だった。3併殺打に2失策。攻守でかみ合わずに、07年以来となる開幕戦の敗北。それでも工藤監督は動じなかった。「ドキドキしたよ。最高にドキドキしたのは、9回だった。エラーしたなら、練習すればいい。いつも打てたら、チームが負けることはない。明日、悔しさを晴らせばいい」。一打出れば、同点の場面に選手と一緒になって、声を張り上げた。指揮官は「明るく真剣に」の姿勢を失わなかった。

 攻める野球が工藤イズムだった。2回無死一塁で8番鶴岡に対する指示は強攻。工藤監督はこう宣言していた。「簡単にバントはしない。投手出身なので、相手の心理を読んで、作戦を立てたい」。試合中盤まで安易にアウトを与える考えはない。現役時代の経験では、その方が楽だった。「バントする、しないで得点の確率はデータを見ても、そんなに変わらない」。2回の攻撃は得点に結びつかなかったが、方向性を示した。

 「向上心」を大事にする。プロの厳しい世界を勝ち抜くために、現状維持を良しとしなかった。新人監督の自分にも、努力を課した。オープン戦では、試合後に必ずビデオで見返した。ハッとした瞬間があった。ベンチで選手のプレーに対し、ガッカリとする自分の顔があった。「表情を変えちゃいけないと思った。選手が見たら、『監督はガッカリしているんだ』と思う。そう思わせてはダメだ」。

 選手が失敗をしても、動じないように心に誓った。いいプレーには全力で喜びを表現する。オープン戦で得点シーンに選手と一緒になって、ガッツポーズ。「監督、早くサインを出してください」とコーチにせっつかれた。工藤監督は笑顔で振り返る。「試合になると、楽しいんだよ。監督やったことないから、分からないこともあるけどさ。勉強させてくれよ」。

 一喜はするが、一憂はしない。長いペナントレースの初戦が終わったばかり。勝っても負けても、工藤監督は自らを、そしてチームを成長させていく。【田口真一郎】